内部通産の活用で売却益を圧縮
不良資産の整理と高利回りの資産の組み換えに成功
所有不動産に貸宅地が多く、収益性が悪く、相続対策も立てにくい。また、バブル時に投資した不動産物件の損失が顕在化しはじめたので、収入アップを伴う資産整理もしたい。
対策の目的は、1.収益性が低い資産を高収益資産に組み換える、2.土地の単価評価が高い物件に組み換えることで相続税を節税する、3.税法(内部通算)を活用して譲渡所得税を軽減させる、にあります。
そのための対策は、1.貸宅地の底地権を売却し、売却で得た資金で優良ビルの一部持ち分を取得する、2.バブル時に購入したセカンドハウスは同族会社に売却して保養施設にする、3.不良資産化したオフィスビルは売却する、という方法で、売却は同じ年度内に終了させます。
これは、底地権売却益が長期譲渡所得になるので26%が課税されてしまうため、売却損が出る資産売却とあわせる(内部通算)ことで、底地権の売却益を圧縮する効果を狙っています。
底地は合計1億円で売れ、9000万円の譲渡益が発生しました。一方、セカンドハウスと既存ビルは合計1億円で損切りし、9000万円の譲渡損が出ました。
この結果、売却総額は2億円になりました。しかし、内部通算を活用することで譲渡益と譲渡損は相殺され、このケースでは譲渡所得はゼロと計算され、売却総額はそのまま手持ち資金になります。
次に手持ち資金2億円で優良ビルの小口化証券を購入します。年7%の表面利回りが期待され、年間収入は確実に増えます。さらに購入したビルの不動産証券は、相続評価をするときに小規模宅地の評価減の対象になるので、相続税の節税効果もあります。
これによって不良資産の整理と高利回り資産への組み換えができました。セカンドハウスを同族会社に売却したのは、セカンドハウスはなかなか売れないので、同じ年度内に売却するための1つの方法です。内部通算は、事業用資産の買い換え特例の利用ではないので、高利回り物件が見つからないときは、現金のまま市況の推移を見ていることです。
ちなみに内部通算は、不動産以外にゴルフ会員権や絵画、骨とう品などでもできます。いまの経済情勢では内部通算を使って譲渡益を譲渡損で相殺する、あるいは給与所得がある人は通期通算を利用して確定申告で損出し(不動産所得損、事業所得損、山林所得損、譲渡損)と相殺して節税するやり方が効果的です。毎年計画的に損出しをすれば、給与から払う所得税、住民税が節税できます。
不動産を所有する会社を買い取る
バブル時、財テクとして都心に3階建てマンションを購入した会社が、本業の美術品販売業が悪化してしまった。マンションは満室だが、高額で購入したため賃料収入だけでは利回りが悪く、不動産事業だけを分離することもできない。オーナー経営者は社長一人の個人会社なので、借金をしないうちに廃業を考えている。
オーナー経営者は会社の存続より老後資金を確保したいけれど、損切りになることは確かなので、できるだけ高値でマンションを売却し、会社を清算したいと思いました。
そこでオーナー経営者は、この会社の全株式を投資家に譲渡します。つまり、投資家が新しい経営者になるわけです。投資家がマンションを購入すると、登録免許税(一般に固定資産税評価額の5%)と不動産取得税(同4%)が課税されます。このため、課税分だけ値引きされることがあります。ところが、投資家が不動産を保有する会社を、会社ごと買う(株式を買い取る)と不動産取得に係わる課税がありません。つまり、不動産そのものの売買ではないからです。しかし、会社の経営権を握るということは、会社の資産を自由に処分できるので、不動産を取得したことと同じ意味を持ちます。
投資家は会社が無借金であることを確認した上で、オーナー経営者から全株式を3億3000万円で譲ってもらい、経営権を握ります。同時に、すべての取締役は退任してもらい、業績を悪化させている美術品販売部門は閉鎖します。
これによって、不動産事業だけを営む個人会社になります。株式取得額3億3000万円は、マンションの資産価値と、マンションの売買に係わる課税額をお互いが折半して負担する金額から算出されました。売る側は少しでも高く売れ、買う側は安く買えたというわけです。
会社に入ってくるマンションの年間賃料は3000万円、表面利回りは9.09%になります。新しいオーナー経営者は会社から役員報酬として1000万円を受け取ります。この株式は取得額3億3000万円に対し、相続税評価額が8000万円になるので、相続対策にもなります。
この株式売却方式は、廃業する会社が増える中、注目を集めています。