相続財産が自宅とアパートだけといった場合など、遺産のほとんどが不動産で現預金はあまりないと言った場合に相続税を納付しなければならなくなってしまうと、相続税の納付に困ってしまうことがあります。このような場合に、納税資金の対策として生命保険を利用することがあります。 被相続人が生命保険に加入し、受取人を相続人にしておけば、死亡保険金が入ってきますので不動産を売却することなく相続税を支払うことができる場合があります。
生命保険金の場合、500万円に法定相続人の数を乗じた金額は相続税がかからないという税法上のメリットもありますので、うまく使う事により納税資金対策だけでなく、相続税の対策にも有効な場合があります。
また、生命保険金は分割資金となりますので、争族対策として有効に利用することもできます。
相続が発生し、「多額の相続税を払わなければならないが、遺産のほとんどが不動産で現預金は少ない」といったケースにおける納税資金の確保手段として、比較的簡単な手続きでできるのが生命保険への加入です。
ただし、相続税の納税資金対策を目的に生命保険に加入する場合は、まず、相続税がいくらになり、現在どれくらいの納税資金があるのなど現状を正確に把握する必要があります。
そして、生命保険で納税資金をいくら確保するのか、その場合の保険料はいくらになるのかなど、しっかりと確認する必要があります。また、契約の仕方により、死亡保険金を受け取ったときにかかる税金が異なってきますので、注意が必要です。
契約者(保険料負担者) | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 | 内容および課税対象 |
夫 | 夫 | 子供 | 相続税 | 保険金−(500万円×法定相続人数)が「みなし相続財産」 |
夫 | 夫 | 相続人以外 | 相続税 | 保険金が相続財産に加算 |
子供 | 夫 | 子供 | 所得税 | (保険金−払込保険料総額−50万円)×1/2=総合課税の対象となる課税一時所得金額 |
妻 | 夫 | 子供 | 贈与税 | 保険金−110万円=贈与税対象 |
・契約者(保険料負担者)が被相続人の場合は “相続税“
・契約者(保険料負担者)と保険金受取人が同じである場合は “所得税”
・契約者(保険料負担者)と保険金受取人が異なる場合は “贈与税”
相続が発生した場合の相続税がいくらになるのか、税額の把握が必要です。そして、現金や物納、あるいは不動産の売却といった方法を用いてどれぐらいの納税資金が確保できるのかなどを考慮しながら、生命保険金で納付したい額を設定し、契約する保険金額を決定します。
受取人は一般的には配偶者になっているケースが多いと思います。しかし、配偶者の軽減措置がある関係上、相続の多くの場合、配偶者が多額の相続税を負担するケースはほとんど存在しないのではないでしょうか。相続税の納付で困るのは子供達ですから、受取人を「子供」とするのも良いと思います。
配偶者である妻が受け取った生命保険金で、子供の負担すべき相続税を納めると、妻が子供に「贈与」したことになり、贈与税が課税されることがありますので注意が必要です。
また、契約者(保険料負担者)、被保険者、保険料受取人がそれぞれ異なる場合は、保険料負担者保険金受取人に贈与したものとみなされ贈与税が課せられることになりますので、注意が必要です。
相続税の納税資金として生命保険に加入する場合には、長生きをしても一生涯保障の続く終身保険が適しています。できるだけ若くて健康なうちに終身保険に加入するほうが良いのでしょうが、支払い方法にも注意が必要です。終身保険の保険料は一般的に一時払い、有期払い込み、終身払い込みのどれかを選択することになりますが、終身払い込みでは長生きすればするほど保険料の負担が大きくなってしまいますので、終身払い込みは避け、期間を定めて保険料を支払うようにするほうが良いと思います。
生命保険の非課税枠は、相続人一人当たり、500万円です。受領保険金額−500万円×法定相続人の数 = 生命保険の相続財産です。
法定相続人が妻と子供2人の場合は、1,500万円までは、税金がかかりませんので、少なくとも非課税枠(500万円×法定相続人の数)までは、被相続人が保険料を負担して保険金が相続財産となるようにしましょう。
一時所得の場合、実質的な最高税率は25%なので、生命保険金をみなし相続財産にするより一時所得とした方が有利となる場合もあります。
被保険者が被相続人で、保険金の受取人と契約者(保険料負担者)が相続人である場合は、死亡保険金は、一時所得となって所得税がかかりますが、死亡保険金を受け取った時の一時所得の金額は、受け取った保険金額から払い込み保険料と特別控除である50万円を差し引いた金額の1/2となり、最高税率は実質、約25%(所得税37%と住民税13%の合計の1/2)となります。したがって、相続税の税率が30%以上となる場合は、一時所得とした方が有利となることがあります。
被相続人が死亡した時に在籍していた会社から死亡退職金を相続人が受け取った場合には、みなし相続財産となりますが、その死亡退職金は相続税の納税資金となり、また生命保険金と同様に500万円に法定相続人の数を乗じた金額は相続税がかかりません。
被相続人が同族会社を経営している場合、会社が社長(被相続人)に保険をかけて、社長が亡くなった時に会社が死亡保険金を受け取りそれを退職金にあてるよにします。そうする事により、保険金を損金として処理するなどしながら、相続税の納税資金を準備することができ、退職手当金の非課税枠も利用できます。
基礎控除額以下の金額を子や配偶者(相続人)に贈与して、そのお金で自分(被相続人)に生命保険を掛けてもらうという方法で節税することも可能です。
贈与税の非課税枠(基礎控除額110万円)を利用し、被相続人が保険料を妻や子供に贈与して、これを資金として、妻や子供が自分を受取人として保険料を支払えば、贈与した被相続人が死亡しても、受け取った保険金については相続税は課されません。ただ、所得税と住民税は、課税されますが、高額になることはありません。
※贈与の基礎控除による節税は、税務署側では、妻や子供から保険料の支払資金は親等からの贈与資金を充てた旨の主張があった場合は、事実関係を検討の上、贈与の事実が認定できなければなりませんので以下のような注意点があります。
1. 毎年の贈与契約書を取り交わしていること
但し、毎年贈与するたびにあらたな贈与契約を結ぶなど、定期贈与契約とみなされないように気をつける。
2. 贈与額が110万円以上のときは、毎年贈与税の申告書を提出していること
3. 生命保険料については、親の生命保険料控除としていないこと
4. 親が子供等の預金口座に現金を振込み、その口座から保険料を支出する等贈与事実の心証が得られるものは、税務署もこれを認めることにしているようです。
贈与についての根拠:事務連絡(昭和58年9月)
1. 被相続人の死亡又は生命保険契約の満期により保険金等を取得した場合、もしくは保険事故は発生していないが保険料の負担者が死亡した場合において、当該生命保険金又は当該生命保険契約に関する権利の課税に当たっては、それぞれ保険科の負担者からそれらを相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなして、相続税又は贈与税を課税することとしている(相法3(1)一、三、5)。
※生命保険金を受け取った者が保険料を負担している場合には、所得税(一時所得又は雑所得)が課税される。
2. 生命保険契約の締結にあたっては、生計を維持している父親等が契約者となり、被保険者は父親等、受取人は子供等としてその保険料の支払いは父親等が負担している、というのが通例である。このような場合には、保険料の支払いについて、父親等と子供等との間に贈与関係は生じないとして、相続税法の規定に基づき、保険事故発生時を課税時期としてとらえ、保険金を受け取った子供等に対して相続税又は贈与税を課税することとしている。
3. ところが、最近、保険料支払能力のない子供等を契約者および受取人とした生命保険契約を父親等が締結し、その支払保険料については、父親等が子供等に現金を贈与し、その現金を保険料の支払いに充てるという事例が見受けられるようになった。
4. この場合の支払保険料の負担者の判定については、過去の保険料の支払資金は父親等から贈与を受けた現金を充てていた旨、子供等(納税者)から主張があった場合は、事実関係を検討の上、例えば、(1)毎年の贈与契約書、(2)過去の贈与税申告書、(3)所得税の確定申告等における生命保険料控除の状況、(4)その他贈与の事実が認定できるものなどから贈与事実の心証が得られたものは、これを認めることとする。
相続財産が自宅だけで現預金はあまりないと言った場合に、複数の相続人がいると自宅を分割するわけにもいかず、遺産分割でもめてしまう場合があります。
こういう場合には、不動産は遺言で一人に遺贈し、他の人を生命保険の受取人に指定して、その死亡保険金を与えるようにします。(但し、保険金額は遺留分の額以上にしておく)
商売をしていて、相続が発生し遺産分割すると商売ができなくなってしまういった場合などに、「代償分割」という方法が使われることがあります。 「代償分割」とは、相続人の一人が財産を受ける代わりに、他の相続人には相当の金銭や別の資産を、その代償として支払うというものです。
この代償分割の支払いのための資金を生命保険で準備することもできます。 財産を受ける人を死亡保険金受取人に指定しておくことにより、受け取った保険金を他の人に支払うことができるようになります。
平成16年10月29日の最高裁の判決(兄弟姉妹4人で親の遺産を分割する際、長男が受取人となった親の死亡保険金について、遺産として分割すべきかが争われた家事審判(最高裁第2小法廷決定(許)第11号 遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する公告審の変更決定に対する許可抗告事件))で
「保険金は(遺産相続の対象となる)特別受益には当たらない」「相続対象外であり、受取人が全額を受領してよい」との初判断を示しました。
そのうえで保険金の遺産分割を認めず、長男が単独で受領すべきだ、とした東京高裁決定(今年5月)を支持し、長男を除く他の相続人からの異議申し立てを棄却する決定を出しました。
どちらかというと、これまで生命保険金については、特別受益として持ち戻しの対象とすべき考え方が有力であり、裁判所の審判例は特別受益に当たるものと、特別受益に当たらないとしたものに分かれていました。今回の最高裁の判決により、よほど極端な分割でない場合は、生命保険金は特別受益に該当しないとの解釈が広まりそうです。
決定によると、平成2年に親が死亡し、長男が保険金(約800万円)を受け取ったが、民法903条は、死亡者の生前に他の子供と異なる贈与を受けた場合、その贈与分を「特別受益」として相続対象に含め相続人全員で分け合うように規定していることを根拠に長女らが「保険金も分割すべきだ」と主張していました。
契約していた養老保険の受取人は長男で、受け取った死亡保険金について、他の兄弟姉妹3人が分配を求めていました。家裁の審判を経て、大阪高裁が「分配の必要はない」と判断したため、3人は最高裁に抗告。同小法廷は、「保険金は受取人が固有の権利として得るもので、死亡者が払い込んだ保険料と同額でもない」と述べ、抗告を棄却しました。
一方、決定では、その他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持ち戻しの対象となると解するのが相当である(相続人間に著しい不公平が生じる場合には例外的に分配を認めるべきである)とし、その判断に際しては、「保険金の額や、遺産総額に対する比率、生前に誰が同居して介護をしたかなどを考慮すべきだ」との基準を示しています。