お父さんが亡くなった一次相続時、ほとんど相続対策をしていなかったため、多くの土地を失ったこともあり、後継者である長女の夫(おむこさん)がセールスマンに勧められるがまま、お母さんの相続対策として30年一括借り上げでマンション・アパート4棟をほぼ同時期に建設したと言う事例です。相談者はあまりの借金の多さを心配した次女の方でしたが、ご相談時にはすでに4棟目の建築が始まっていましたので、止めることはできませんでした。
相続対策前は、広い敷地の自宅がある代表的な都市農家で、古いアパートと駐車場、そして宅地並み農地、父の生前は生産緑地でしたが相続を機にすべて解除したため、お母さんの相続対策を兼ね土地の有効活用をしようと思ったのでしょう。お母さんが相続した財産の相続税評価額は合計13億円。確かに何もしなければ相続税は5億円、さらに財産の半分近くを失ってしまいます。
そこにセールスマンがうまく入り込んだのでしょう。提案されたのは、やはり30年一括借り上げシステムでのアパート・マンションの建築でした。その結果、ほぼ同時期に自宅の敷地にまでアパートを建て、結果マンション・アパートを計4棟建築しました。明らかにやりすぎです。結果として借入総額15億円に対し財産全部の評価額が17億円。相続税の課税評価額は2億円となり、相続税は5億円が、なんと2460万円まで抑えられるというものです。確かにここまでは「うまい話」です。
しかし、まず気づくべきは、お母さんはまだ60歳、すぐに相続が発生する可能性は低い点です。いま相続税が減らせたと喜んではいけないのです。仮に今すぐ相続が発生すれば、相続税は2460万円なので、手元の金融資産から相続税は納税できます。しかし・・・。
話を事例に戻します。弊社で20年後の状況を試算しました。借入金は約半分に減って7.5億円になっています。その他の財産の評価額合計が14.5億円となる計算で、課税資産は7億円、相続税が2億1240万円となる試算結果です(現行の相続税率ですので、20年後はもっと高くなっている可能性もあるでしょう)。この試算での重要なポイントは、30年間一括借り上げで建てた4棟のアパート・マンションの長期的な収支予測です。10年間は家賃が固定となっていますので、当面問題は起こらないでしょう。
契約書上は11年目と16年目に保証家賃額の改定(現実的には家賃値下げ)があります。オーナーが改定(値下げ)を承諾しない場合、サブリース契約が解除される内容ですから、間違いなく家賃は大幅に下がるでしょう。
「16年目に20%家賃下落」という前提で計算しました。戸数の多い木造アパートの方は設備の減価償却を終える16年目以降は経費が減るため、収入が減っても所得税が増えます。税金まで考慮した結果、キャッシュフローは赤字に転落すると予測しました。あくまでも予測ですが、確率は高いと考えています。
16年後、すべてを任せていたお婿さんは赤字に転落してもきっと手を打てません。過剰な借入金を返そうとアパート・マンションを売却したところで、借入だけが残る可能性が高いと思われます。つまり、手元の現預金がただ減っていくだけです。これが「やりすぎ相続対策」の事例です。手遅れになる前に、ぜひ弊社までご相談ください。
動画URL: https://youtu.be/zPzQ-8UepCU?list=PL4SLxb31faRLdf-1FvF3w91vnp_oaGMAG