前回のコラムにも書きましたが、今回平成25年度税制改正(平成27年1月1日以降の相続より適用)の相続税の増税は、基礎控除の引き下げにより、現在の税制では相続税がかかるかかからないか、かかっても僅かという財産規模の人達への影響が大きいと言えます。
国としても、相続税の課税対象者を現状の4%程度から6%程度へ引き上げる事も目的なので、実際に相続税を払う人の数は確実に増える事になるでしょう。
そういう背景から、巷では“相続税の増税”をうたい文句にしたセミナーが大ブームです。ハウスメーカー(建築会社)、不動産会社、マンション投資会社、保険会社、コンサル会社などが、こぞって“相続税対策”を強調しています。
7月13日号の週間ダイヤモンドに、最近またブーム?となっているワンルームマンション投資についての取材を受け、p38~p39にマンション・アパート投資「ワンルームマンション活況も落とし穴が多い不動産投資」としてその内容が掲載されている事を前回のコラムでもご紹介させていただきましたが、先日、このダイヤモンドを読まれた方(一般読者のAさん)が私の会社に相談に来られました。
相続税が増税になることを心配され、ご自身の相続税の対策と資産運用として、中古ワンルームマンション投資を検討し、マンション業者から具体的に購入を勧められていたが、家賃下落や維持費の負担が心配で、色んなところに相談したが、的を射た見解が得られず悩んでいたところに、週間ダイヤモンドの私の記事を見たとの事で相談に来られました。
偶然にも、購入を検討していた中古ワンルームマンションは、記事でシミュレーションした物件と同じくらいの金額で、もう少し借り入れが多い資金計画でした。
物件の資料もご持参されたので、拝見しましたが、私が記事の事例で採用した物件よりも条件は良くありませんでした。
不動産の質を論じる(投資対象としても良いとは言えない物件でしたが)前に、結論は“Aさんは相続税対策の為にリスクを取ってまでマンション投資をする必要はない”と言う事で納得されました。
ご自身の相続税がいくらくらいかかるか正確にご存じですか?と、尋ねたところ、“正確には知らないが、基礎控除が下がるので、結構かかると思っている”との事だったので、相続税の速算表を用いて、課税資産が1億円の方で、一次相続税額が、現状の100万円から平成27年以降315万円になる事を説明させていただいたところ、予想外だった(本人はもっと多額の相続税がかかると思っていた)ようです。
この方に限らず、今回の相続税の増税改正を受け、過剰に心配されている方は大勢います。先週は、この方以外にも自宅と50坪程度の駐車場をお持ちの方(Bさん)が、やはり1千万円以上の相続税がかかるのではないかと心配されていたので、試算したところやはり心配ない事がわかり安心された事例もありました。
話は戻って、週刊ダイヤモンドを見て相談に来られたAさんは、実際の相続税額を知って、リスクをおかしてまで無理してマンション投資をする必要がない事を理解されました。
また別の日には、相続税が心配なので、古い家を壊し賃貸併用マンションを建てようと思っているが、自己資金は10%程度でも本当に大丈夫か心配で相談に来られた方もいました。
『30年一括借り上げなら、家賃収入でローン返済をしながら悠々と暮らすことができます』と言う甘い言葉に惑わされていました。
路線価の高い都心部に自宅があるので、相続税対策を兼ね検討したいとの事でしたが、実際には、小規模宅地の評価減(改正で240㎡が330㎡に拡大)が適用できる為、相続税の心配は不要(現金で十分払える金額)でした。
相談者に共通して言える事は、相続税の心配と不動産賃貸経営(不動産収入(不労所得?))への憧れがあるように思います。
借入中心で、家賃収入でローン返済をしながら悠々と暮らすことができるほど賃貸経営は甘くありません。全戸賃貸でも全額借入では将来的には厳しくなるのに、自宅部分は収入がなく利回りが低いので、将来的にキャッシュフローが回らなくなる可能性が大です。
なお、『30年一括借り上げ』を大々的に謳っておきながら、建物賃貸借契約書(サブリース契約)上は、3ヶ月前の解約予告が入っていましたので、将来家賃の値下げ交渉が決裂したら、3ヶ月で解約されてもしかたありません。結局は家賃を下げざるをえません。
現実問題として家賃が下がっている事例は山ほどあります。悠々と暮らすどころか、大切な財産を無くす事にもなりかねません。
リスクを冒してまで、「ほんとうに不動産を使った相続税対策が必要かどうか」を良く考える必要があります。