今月より、日本不動産仲裁機構の母体である特定NPO法人の「日本住宅性能検査協会」のコラム連載(月1回)を担当する事になったので、同じ記事を当ブログにも掲載していきます。
以下本文です。
本コラムでは、最近『相続税の増税対策』が恰好のセールストークとなっている“土地の有効活用”“収益物件の購入”をはじめとした“不動産を使った相続税対策”の注意点などについて書かせていただこうと思っています。
第一回目の今回は、その相続税の増税「平成25年度税制改正」内容についてです。
平成25年度税制改正(大綱)における相続税関係の主な改正点
○相続税の税率構造の変更(最高税率の引き上げ)
※平成27年1月1日以降の相続に適用
相続財産(相続人1人当たり)
6億円超は50%→55%へUP
3億円超は50% で変わらず
2億円超は40%→45%へUP
2億円以下は 変わらず
○相続税の基礎控除を40%縮小
現行の 5000万円+1000万円×法定相続人数 から
改正後は、3000万円+ 600万円×法定相続人数 となります。
但し、未成年者控除と障害者控除については、控除額が引き上げられます
□未成年者控除
現行「20歳になるまでの1年につき6万円」
⇒改正後「20歳になるまでの1年につき10万円」
□障害者控除
現行「85歳になるまでの1年につき6万円※」
⇒改正後「85歳になるまでの1年につき10万円※」
※特別障害者(障害者1・2級)の場合には12万円(改正後20万円)
今回の相続税の増税により実際どのくらい相続税額が増えるかをまとめたものが以下の表です。
(お父さんが財産を所有していて、相続人がお母さんと子供2人(相続人3人)の場合で、お父さんが亡くなった場合の相続税(一次相続税)の試算です。
たとえば、相続税の課税価格(財産の評価額合計)が3億円の場合の相続税の計算ですが、現行法では、基礎控除が8000万円(5000万円+3000万円)となりますので、基礎控除を引いた金額2億2000万円を法定相続割合で取得したものとして計算します。(下記相続税の計算方法を参照)。
相続税の総額は4600万円となりますが、配偶者は法定相続分(1/2)までは相続税がかから為、実際の相続税の額は2300万円(上記表の金額)となります。
(相続税の計算方法)
3億円(課税価格)-8000万円(基礎控除)
=2億2000万円(相続税の計算対象額)
これを法定相続分毎に下記速算表を使って相続税を計算してみますと。
母(1/2)分 =
1億1000万円×40%-1700万円(控除額)=2700万円
子(1/4)分 =
5500万円×30%- 700万円(控除額)= 950万円
子(1/4)分 =
5500万円×30%- 700万円(控除額)= 950万円
相続税の総額 4600万円
となり、本来の相続税額は4600万円となります。
そして、その相続税額を実際に財産を取得した比率で案分して各人の相続税額を算出します。
実際にそれぞれが法定相続分通りで取得した場合、
(各人の相続税の計算)
母1/2 × 4600万円 = 2300万円
子1/4 × 4600万円 = 1150万円
子1/4 × 4600万円 = 1150万円
となりますが、母は財産の半分1/2までは相続税がかかりませんので、相続税額は子2人分の(1150万円×2人=)2300万円となります。
これに対し、税制改正後の税率と基礎控除で同様に計算した場合以下のようになります。
3億円(課税価格)-4800万円(基礎控除)=2億5200万円(相続税の計算対象額)
これを法定相続分毎に相続税を計算します。
(相続税の総額の計算)
母(1/2)分 =
1億2600万円×40%-1700万円(控除額)=3340万円
子(1/4)分 =
6300万円×30%- 700万円(控除額)=1190万円
子(1/4)分 =
6300万円×30%- 700万円(控除額)=1190万円
相続税の総額 5720万円
となり、本来の相続税額は5720万円となります。
その相続税額を実際に財産を取得した比率で案分して各人の相続税額を算出します。
実際にそれぞれが法定相続分通りで取得した場合、
(各人の相続税の計算)
母1/2 × 5720万円 = 2860万円
子1/4 × 5720万円 = 1430万円
子1/4 × 5720万円 = 1430万円
となりますが、母は財産の半分1/2までは相続税がかかりませんので、相続税額は子2人分の(1430万円×2人=)2860万円となります。
課税財産が3億円の場合の相続税額は、現行法では 2300万円
税制改正後では 2860万円
その差560万円の増税と言う事になります。
○小規模宅地等の特例の見直し
相続税の税率構造の見直しと基礎控除の引き上げにより、都心部(地価の高い場所)に自宅を持つ人が不利にならないように、個人が住居に使っていた土地にかかる相続税の減税対象(80%減)となる面積の上限が従来の240㎡から330㎡に引き上げられました。
その他、老人ホームの終身利用権を取得している場合に、もともと住んでいた自宅の敷地については、改正前は適用不可でしたが、改正後は①介護が必要なため老人ホームに入所したもので、②貸付用となっていない場合には、特例の適用が認められる事になりました。
今回の増税については、税率構造の見直しより、基礎控除の縮小の影響の方が大きいと思います。
上記計算(課税財産3億円の一次相続(配偶者+子二人)の場合)では、実際に税率構造の見直しの影響はなく、基礎控除の縮小の影響で、560万円の増税となります。
財産の評価額が3億円の人にとって、560万円の税負担が“大増税”と言えるかどうかは疑問ですが、世間では、“大増税”をうたい文句に節税の為の賃貸住宅の建築などを勧めるセミナーなどがブームとなっています。
どちらかと言うと、金額的には大きくなくても、これまで相続税がかからなかった人達への負担感の方が大きいのかもしれません。そう言う方達へも、相続税の節税対策を理由に賃貸併用住宅の提案なども盛んに行われているようです。
今後も相続税については、序々に増税方向になるのは間違いないと思いますが、あまりに過度に心配しすぎて、賃貸併用賃貸住宅を全額借入で建築するのは、その後のキャシュフローを考えるとリスクが高い場合が多いです。
第二回目からは、“土地の有効活用”や“収益物件の購入”をはじめとした“不動産を使った相続税対策”の注意点などについて、書いていきたいと思います。
本内容は、日本住宅性能検査協会のコラムに寄稿したものです。