事業を息子に継がせたいが保有株式がネックに
鉄工所を経営する三代目社長のA氏は、息子に事業を継がせたいと思っている。すでに工場は郊外に移転したが、本社が都心にあり、そのため一株が6000円近くにも評価されているので、相続税対策をしないと息子への事業継承がむずかしい。もう一つ、本業の業績が悪化しているため、別の収益の柱を作る必要もある。
息子に、事業継承させるには、相続が起きたとき、A氏が保有する86,000株の株式をそのまま息子に相続させなければなりません。しかし、現金で相続税を払えないときは、株を親類、知人に買い取ってもらい、相続税を用意しなければなりません。その結果、オーナーシップを失う可能性もあります。その事態を避けるためには、相続税が納められる範囲に収まるように、株式の評価を下げる必要があります。
非上場会社の株式を評価するとき、一株当たりの純資産額から算出する方法や類似業種上場会社の株価を参考にするなど、いろいろな方法がありますが、その中に「土地保有特定会社」という規定があります。これは会社資産の一定割合異常が不動産を占めるとき、会社の純資産価格(相続税評価額)から株価を計算する、というものです。A氏の会社は都心に本社ビルを持っているため、含み益が高く、資産のうち80%を土地が占めていることから、土地保有特定会社の規定に当てはまります。しかも、本社所在地が坪当たり評価が高い一等地の土地のため、資産価値が大きくなり、株式評価も高くなっています。A氏の会社の場合、一株の価額が5,960万と評価され、A氏の持ち株の相続税評価額は5億1000万円以上になります。
株式評価を下げる方法としては不良債権の償却、不良棚卸資産の廃棄、不良資産の廃棄などがありますが、A氏の会社は堅実経営をモットーにしているため、不良資産が少なく、この方法が使えません。
そこで、含み益が高い本社不動産を、評価減が適用される賃貸不動産に組み替えることで資産を圧縮します。この結果、会社の資産に占める不動産割合を70%未満に下げて、評価方法を純資産価額から、ほとんどの会社が株価を下げている類似業種比較価額に変更できるのです。
この対策は、あわせて本社不動産の活用も可能にします。まず、本社の土地デベロッパーに売却し、等価交換で土地に建設されるオフィスビルの所有権の一部を取得し、賃貸オフィスにします。資産の大部分が土地から賃貸建物に代わったことで、相続税の評価は大きく下がります。賃貸オフィスから賃料が会社に入るので、業績不振を補えます。
会社の資産に占める土地の割合が70%未満の64%になったので、株価評価について類似業種比較方式が適用されます。この結果一株の価額は413円になり、株式の評価額は3,560万円に下がり、相続税予定額が2億7000万円から2700万円に圧縮できたことで、何とか納税予定資金で充当できます。
本社不動産の活用によって固定収入(不動産収入)が確保でき、本業収入にプラスされたことで、本業を守ることもできました。
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