賃料相場を無視した上に賃貸物件をつくりすぎて破産に
バブル期の話です。ある私鉄駅の東側は大規模な住宅地が開発され、人気スポットになっていました。ところが、西側は丘陵地が迫っていることもあり、大手デベロッパーの手が入らず、未開発の状態でした。
この西側に広い土地を持っているBさんは、「東側があれだけ開発されて、人気が出ているのだから、西側でも賃貸物件を建てれば大きな収入が得られるだろう」と考えていたところに、開発を勧める地元建設会社と、融資を勧める金融機関が現われ、Bさんは賃貸マンションを5年間に3棟も建設しました。
当初は、東側の賃料が高かったため、同じ駅名のブランドにひかれて賃貸物件は高い賃料でほぼ満室の状態が続きました。ところが、さらに東側の開発が進み、賃料が安い賃貸マンションが出現するようになりました。すると、賃貸住宅を希望する人は街並みがきれいな駅東側に物件を求めるようになり、当然、Bさんが建てた賃貸物件には空室が出てきました。
賃貸マンション建設を勧めた建設業者は「このエリアなら空室が出ることはありませんよ」といって、空室リスクをほとんど見ないで収支計算をしていたため、たちまち、金融機関への借入金返済が苦しくなりました。
賃料不足をカバーするために賃貸物件を次々に建てる
すると、別の建設業者が「うちで建てれば人気が出る物件になることは間違いありません。高い賃料が取れます。賃料不足はカバーできます」と持ちかけてきました。Bさんはワラにもすがる思いで「そうですか。ではお願いします」と新しい賃貸マンションをまた建ててしまいました。
しかし、やはり空室が目立ちます。そのうち、 B さんは「借入金を返済するためには、新しい賃貸物件を建てて賃料収入を増やすしかない」と思い込むようになり、次々に住宅メーカーや建設業者から持ち込まれる話に OK を出してしまいました。
Bさんは、それぞれの建設業者の勧められるままに、合計 16 棟もの賃貸物件を建ててしまいました。しかも、建設業者がバラバラなので、五階建てのマンションがある一方で、賃貸アパート、一戸建て賃貸住宅が点在する統一感がない一帯ができあがってしまいました。
Bさんは、一見、自分の土地に賃貸物件を多数所有する資産家に見えます。しかし、実態は借入金を返済するとほとんど手元にお金が残らない状態でした。さすがにBさんも「このままでは大変なことになる」と気がつき、金融機関と交渉して低金利に借り換えをし、空室率の低い賃貸物件を売却して借入金の返済に充て、何とか返済負担を軽くしました。
それで一時は何とか持ちこたえたのですが、収益性の高い物件を手放したことで、賃料収入が減り続け、ついに借入金が返済できないところまで行き着いてしまいました。もう、万策が尽きました。弁護士に相談をすると「このままでは借入金が増えるだけです。あとは自己破産しかありません」と告げられました。
Bさんは残った賃貸物件だけではなく抵当に入っていた自宅も競売にかけられ、すべての資産を失いました。
「何もしないほうがいい」例が急増している
最初にBさんのケースを紹介したのは、いま現在においても土地オーナーにとってけっして他人事ではないからです。「バブル時代の話だから関係ない」と思ってはいけません。建設業者や金融機関の勧めにのって、土地活用に失敗したり、多くの資産を失っている話をよく見聞きいたします。私どもに相談にこられる方も後を絶たない現状があるからです。
私たちは、こうした失敗、悲惨な結末を土地オーナーに経験してもらいたくないのです。私たちのところには、多くの土地オーナーが「何か有効な土地活用はないですか」とご相談に見えます。コンサルタントの仕事は、ご相談の依頼者に最善のアドバイスを行ない、それを実行していただくことです。
私たちは必ず現地を見て、どのような土地活用が土地オーナーにとってベストの活用法になるかを考えます。しかし、最近は「いまは土地の活用はお考えにならないほうがいい」と申し上げなければならないケースが増えてきています。極端なケースでは、「いまの活用法はおやめになって、何もしないほうがいいです」とアドバイスせざるを得ないこともあります。
それは立地条件や周辺の市場性から、テナントが入らず高い投資効果(利回り)が期待できないだけでなく、将来にわたって土地を所有し続けることのリスクが大きいケースが多くなっているからです。もちろん、最適な活用法が見つかり、土地オーナーに喜ばれることもあります。しかし、そうしたケースが減っていることも事実なのです。
決断の遅さが最悪の結果を招く
このBさんのケースは、何の計画性もなく、建設業者や金融機関のいわれるままに賃貸物件をつくり続けたことが間違いでした。
前もって賃貸市場を調査すれば、東側の人気の高さに乗じて、西側に大量供給してしまうと賃貸事業が成り立たなくなることは、わかったはずです。もし事前の相談があれば「何も活用しないことがベストの選択です」とアドバイスしたでしょう。
「どうすれば解決するのか」という視点でアドバイス
この章では、私たちがコンサルティングを行なった事例を中心に、土地活用のいろいろな具体例を紹介します。
一つは、わたしたちが見聞きした土地活用に明らかな失敗例です。「もし、私たちに前もってご相談いただいていれば、そうした失敗は避けられたはず」という思いから、失敗原因の検証と、どういう土地活用をすべきだったか、本来、土地活用はすべきでなかったかを例示しています。
もう一つは、ご相談に来られた土地オーナーが考えられていた土地活用法の危険性、デメリットを指摘して、よりリスクが少ない、高い利回りが得られる活用法をご紹介して、成功したケースの例です。
そして、すでに土地を活用されていて収益が上がらなくなったり、トラブルを抱えたご相談で、「どうすれば解決するのか」をアドバイスしたケースです。
それぞれ、どこに問題点があるのか、あったのか。問題を回避するにはどうすればよいのか、どうすればよかったのか。そして、土地オーナーにとって最善の解決方法をご紹介しています。
正直申し上げて、中には「もう手の打ちようがない」と思われる状況になってから、ご相談に見える方もいます。それでも、私たちは「何とか、この土地オーナーを窮状から救いたい」と救出方法を考えます。
土地は二つと同じ条件のものはありません。これからご紹介する事例が、皆さんの悩みと、まったく同じではないでしょうが、類似したケースがあるはずです。土地活用にお悩みの土地オーナーが解決策を見い出すための参考になれば幸いです。
等価交換をしたが選択を誤り収益率が低下
地方中核都市で、ベッド数25床の病院があり、その規模が中途半端なため、経営の維持がままならず、5年前に閉鎖されました。立地は市内のメインストリートに面していたのですが、具体的な活用法が見つからず、そのまま土地200坪と鉄筋4階建ての建物が残されました。
すると、ある大手不動産会社から「等価交換方式でマンションを建設しませんか」という提案がありました。周辺にマンションが立ち並ぶようになっていたので、オーナーは「その話に乗ってみるか」と前向きになりました。
等価交換は、8階建てマンションを建て、オーナーは70uの部屋5つ分を所有するという条件でした。大手不動産会社の土地の評価額(1億7000万円)と5部屋分の評価(1戸の販売価格平均3500万年)が同じという説明も納得できました。オーナーは「このまま廃墟にしておくよりマンションを建てて、等価交換で手に入る部屋を賃貸にすれば収入になる」と考えて、提案を受けました。
さて、この土地オーナーの判断は正しかったのでしょうか。 結論からいえば、メインストリートの200坪の土地と70u、5部屋の交換では「もったいない」ということです。土地とマンションの部屋を等価交換するということは、素材(土地)を提供して完成品(マンション)を受け取るということです。完成品の勝ち(販売価格)には加工した人の利益が含まれていますから、当然、まったくの「等価交換」ということにはなりません。
等価交換の場合、土地を手放すことになるので、たとえば、最上階の続き部屋であるとか、オーナーにとってかなり有利な条件を引き出すことが求められます。
また、等価交換で計算される土地の評価は原則「原価」です。部屋の評価も販売価格ではなく、できれば建設コストから計算された原価に近い価格で交換すべきです。しかし、現実は困難でしょうが、「販売価格ではいやだ」と、強い態度で交渉することは必要です。開発業者にとって魅力ある立地であれば、土地オーナーの要望を受け入れることは十分考えられます。
利回りはどうでしょうか。土地の評価額はありません。しかし、等価交換で手に入れたマンション5部屋を賃貸にしても、1部屋の家賃は月10万円程度ですから、年間の家賃収入は合計600万円です。
結局、提供した土地の評価額に対する家賃収入の年間利回りは3.53%で、しかも、5部屋分の敷地権しか残りません。決して有利な等価交換ではないことがわかります。
同じ土地を活用するにしても、土地を手放すことなく、初期投資が少ない有効活用を検討すべきでした。
私たちが提案するとすれば、2階建ての建物にして1階にコンビニ、2階に学習塾をテナントとして入れるプランになるでしょう。
というのは、この地域に進出を希望しているコンビニと学習塾があるという情報を得ていたからです。建物を2階建てにするのは、建設費を極力抑えて高い利回りを追求するためです。大きな初期投資をして大きな建物を建設しても、それは高い利回りを保証することにはなりません。初期投資が大きく、しかも資金調達を借入金に頼れば、返済額が大きくなり、当然、実質利回りが下がるだけでなく、金利上昇リスクも大きくなります。
高い利回りを追求することと、大きな初期投資はまったく無縁なのです。それより、確実にテナントが確保できる建物にすることで、空室リスクをなくし、返済負担、金利リスクを少なくした方がずっと賢明です。
建設費(解体費用含む)=4000万円(全額借入)
年間賃料=1560万円(コンビニより840万円+学習塾720万円)
土地評価額=1億7000万円
総投資額(土地+建物)=2億1000万円
年間返済額(返済期間15年・金利3%)=340万円
年間表面利回り=7.4%(1560万円÷2億1000万円×100)
このように初期投資を抑えれば、全額を借り入れても7%を越える利回りが確保できたはずです。等価交換でマンションを5部屋を手に入れたときに比べて、高い利回りになります。しかも、土地を手放す必要がないのです。
もちろん、立地によってはコンビニや学習塾ではなく、土地の半分を売却して自己資金で賃貸マンションを建てることも考えられます。
立地条件がよければ、デベロッパーと強気の交渉ができるので、土地と交換して手に入る部屋(還元床)も広くなりやすいのですが、それ以外のエリアでは土地オーナーにとって本当に有利な条件を引き出すことは至難の業といえます。
それは、土地オーナーとの力関係から、等価交換がデベロッパー主導になってしまうからです。その結果、建築コストや販売価格の設定が不透明で、土地オーナーに対する説明と実際の建築費や販売価格が異なることが多いのです。等価交換の場合、専門家のアドバイスをしっかり受けて進めてください。
作業場跡地にグループホームを建て採算が向上
ある地方都市の企業が800坪ある作業場跡地の活用を考えましたが、周辺賃料の下落が激しく、いま、賃貸住宅や賃貸マンションを新築しても採算がとれなくなっています。
そこで、スーパーマーケットをテナントに誘致しようと、テナントさがしをはじめました。しかし、幹線道路に面していないことと、800坪では十分な駐車スペースが確保できないなど、立地のむずかしさから進出を決めるスーパーマーケットが見つかりません。このような状況の中、企業として収益が上がらない土地を遊ばせておくわけにはいかず、作業場跡地の早期収入確保を求めていました。
一般論として、必要のない作業場を閉鎖して、その跡地を活用し収入を得ようという考え方は間違っていません。土地を売却するという選択肢もありましたが、オーナー経営者は「祖父が創業した原点の土地だから、土地は残したい」という強い思いを持っていました。
そこで私たちが提案したのは、高齢者を介護するグループホームです。土地オーナーが介護施設を建設し、施設運営会社に賃貸するのですが、賃貸契約期間は20年以上と義務づけられているので、中途解約のリスクは少なくなっています。ただ、一般の賃貸物件に比べて利回りが低いのが難点ですが、長期にわたって安定した収入が見込めます。
立地条件としては住宅地で近隣に商店街があるので最適でした。というのは、高齢者が生活していく上でこの環境は、リハビリを兼ねて買い物や散歩ができるからです。
私たちに相談があったとき、オーナー経営者は土地活用に必要な資金は、全額借り入れる考えでした。私たちは借入リスクがあることと、この企業にとって収入源の柱となる不動産活用は、手元に残る金額が多いことが重要と考え、借り入れをしないことが一番のポイントと判断しました。
グループホームであれば、800坪の敷地は必要としません。350坪あれば採算がとれるグループホームが建設できますから、借り手の運営事業者を見つけることは、そうむずかしいことではありません。そこで、利用を必要としない450坪の土地を売却して、建設費に充てることをオーナー経営者に提案しました。
採算性の試算は、次のようになります。
▼ もともとの土地の評価額=3億2000万円
▼ 土地(450坪)売却価額=1億8000万円(事業用資産の買換特例を使い、手元に約1億6000万円が残る)
▼ 建物建設費=1億6000万円(土地売却代金を充当)
▼ 敷金=1000万円(手元資金にしておく)
▼ 借入金=0
▼ 年間賃料=1440万円(月120万円)
▼ 年間利回り=4・5%(1440万円÷3億2000万円)
オーナー経営者も「地元に育てられた企業として地元の人たちに社会貢献できればいい。祖父が残してくれた土地がすべてなくなることではないから」と考えて、グループホームの建設を決断しました。
契約期間の途中でテナントが撤退
Cさんは自分の土地に建物を建設し外食店に賃貸していましたが、賃貸借契約期間三年が満了する半年前、業績不振を理由に「契約更新はしない」との申し入れがありました。最近、こうしたテナントの撤退で困っているオーナーが増えています。
Cさんは契約解約に伴う新たな負担が生じないか心配するとともに、早く次のテナントをさがさなければなりませんでした。
どうして、このような事態になったのでしょうか。最大の原因は賃貸借期間を三年という短期にしたことです。おそらく、口約束で「会社の規定で契約は三年ですが、 10 年でも 20 年でも借りますよ」という会話があったと思われ、当然、自動更新されると思い込んでいたのです。しかしながら契約上、賃貸借期間の満了ということでテナントにペナルティを課すことはできません。
次の手段としては、一刻も早く次のテナントを見つけることしかありません。このとき、解約と閉店は別の問題であることを理解してください。次のテナントをさがすためにも、閉店時期を明確にしてもらう必要があります。閉店時期に合わせて、次のテナントをさがす期間が稼げるのです。
私たちが、 C さんの依頼を受けて新しい外食産業のテナントさがしをお手伝いすることになりました。
すでに建物がある場合、同じような業種をさがすことになります。外食店であれば、厨房があり、店内は、いすやテーブルが設置されているので、日用品販売店をテナントにしようとすれば、大幅な改装をするか、建て直すしかありません。それはオーナーにとって新たな、大きな負担になります。できるだけ現況のまま同じ外食店に賃貸するほうが、負担は少なくてすみます。
おそらく、これまで出店の話をもってきたことのある会社に「いまのテナントが出ていくことになった。以前はお断りしたが、今回、出店しませんか」と連絡することになります。焦って、オーナーにとって不利な賃貸借契約をしてはいけません。
新しいテナントに賃貸することになったということは、よりよい条件で貸すことができるチャンスでもあるのです。しかし、借入金の返済があるので、早く賃貸する必要があります。
まず、立地にあった外食店をチェーン展開している会社を 71 社リストアップしました。さらに、それぞれの会社の業績や店舗展開の取り組み姿勢を評価して、物件紹介をする会社を 39 社に絞り込みました。業種は洋食レストラン、和食レストラン、中華レストラン、回転寿司、焼き肉レストラン、ステーキハウス、イタリアンレストラン、とんかつ、ちゃんこ、居酒屋、お好み焼きと多肢にわたります。
39 社すべてに、こちらの希望賃料(月額 100 万円以上)、物件の概要を提示して、物件に興味があるか、出店を検討するかの回答をもらいます。もちろん、すぐに出店を決めることはありません。物件に興味を持った会社は店舗出店担当者が物件と立地を確認します。
その結果、「今年度の出店計画は完了した」「駐車スペースが足りない」「規模が大きすぎる」といった理由で出店を断る会社も出てきます。この経緯はリストにしてオーナーに説明しますから、オーナーは進捗状況がわかるので焦ることはありません。
出店に積極的な姿勢を見せ、希望賃料、希望敷金を提示してきた 4 社を候補テナント≠ニして、具体的な交渉に入ります。 4 社の中からオーナーにとって一番有利な条件を出してきた会社を選べばいいわけですが、これは簡単なことではありません。それぞれの会社が提示した希望賃貸条件は別表のようにバラバラで、単純な比較ができないからです。会社の信用度、将来性を加えた総合評価≠する必要があります。
私たちは C さんに同じ失敗をしないために、とくに中途解約のリスクを避ける契約にするよう強くアドバイスしました。
その具体的な考え方は次項で説明しますが、店舗などに賃貸するときは契約期間を建物建設費の返済期間に合わせることが原則で、契約期間満了時には借入金がなくなっているようにすることが基本です。そのうえで、契約期間中の中途解約はテナント側に重いペナルティを課し、中途解約するとテナントに損になる、中途解約されてもオーナーには負担が生じないという契約内容にすることです。
もう一つ、アドバイスがあります。テナントが中途解約を申し立ててきたときは、すぐに「契約通りの事前通告ですから、しかたがありません」と了承しないことです。まず、「待ってほしい」と契約解除を了承しないことを、テナントに通告する必要があります。交渉によって三ヵ月でも六ヵ月でも退去が延びれば、賃料を下げざるを得なくなっても、新しいテナントをさがす時間に余裕が生まれます。ケースによっては、テナントのホンネは「賃料を下げれば、契約を更新してもいい」というところにあるかもしれませんから、話し合いの余地はあります。
中途解約のときのペナルティ条項以外のポイントは賃料、改装費用、契約期間、賃料改定になります。
もちろん、賃料は高いほどいいわけですが、ほかの条件とのバランスが総合判断になります。私たちは、最終的に B 社をオーナーに推薦しました。その理由は、次の通りです。
? A 社は賃料が月 100 万円、敷金 600 万円と 4 社の中で一番安い。契約期間も 10 年と短く、賃料改定が 3 年ごとで、賃料値下げが頻繁に要求される可能性がある。
? B社は改装費がオーナー負担になるが月額賃料は 130 万円、敷金は 1300 万円を提示し、賃料改定が 5 年と安定収入が見込まれる。また、会社に勢いがあり業績もいいことから、中途解約や契約期間中の賃料値下げ要求が出てくるリスクが少ないと考えられる。さらに、中途解約の場合の敷金の放棄だけでなく違約金を払うことも条件として受け入れてくれた。
? C 社も改装費はオーナー負担になり、月賃料は B 社と同額、敷金 2600 万円を提示し、数字のうえでは一番有利になっているが、中途解約のペナルティには難色を示すだけでなく、業績にかげりがある。
? D 社は改装費の建設協力金として2500万円、月賃料 134 万円を提示しているが、協力金返済後の実質手取り賃料は月 120 万円程度になる。また、賃料改定も 3 年と短い上に、中途解約のペナルティも受け入れられなかった。
中途解約のとき、テナントにはどういうペナルティを課せばいいのでしょうか。
どうしても中途解約するという場合、金銭的には入居時にオーナーが受け取った保証金の処理と、オーナーが受けた損害の補償があります。このとき、賃貸借契約書の中の、「期間内中途解約」の項目に次の内容があるかどうかがポイントになります。
? 契約期間内に乙 ( 借り手 ) の一方的な都合により、中途解約をする場合、乙は、いままでの契約と同様か、それ以上の条件で建物を借りる第三者を甲 ( 貸し手 ) に紹介し、その第三者と甲が賃貸借契約をしたとき、あるいは乙が保証金 ( 敷金 ) を全額放棄したときは、乙は契約を即時解約できる。
つまり、撤退したいテナントがいままでと同じか、いままで以上の条件で借りてくれるところをさがして、そこと交渉がまとまったとき、あるいはテナントが「保証金および敷金を返してくれなくてもいい」といえば、すぐに解約できるということです。
? 契約期間満了前に解約をするときは、解約日から契約完了期間までの賃料を一括して支払うことにより解約することができる。
これは契約満了日までの賃料をテナントに補償してもらうことでリスクは大きく軽減します。
契約書に、この二項目があれば、テナントが「契約期間途中で解約したい」と申し出があっても、金銭的な損失は起こりません。こうした契約項目がないときは、すべて話し合いになるので、契約期間中の賃料がもらえなかったり、敷金の返金を要求されたりと、オーナーにとって不利な結果になることもあります。
次に、退去後の原状回復があります。
事業不振や倒産で店を閉鎖するとき、店から人だけがいなくなった状態で置かれることがあります。そうした場合、後始末はオーナーが負担しなければなりませんから、これも契約書で、「退去時にテナントの責任で原状回復をする」ことを明記しておく必要があります。そして、原状回復に関する「合意書」を取り交わすことです。
こうした交渉は、オーナー自身よりも、交渉力がある専門家に任せることをお勧めします。
賃貸マンション建設を中止し介護施設に
Dさんは東京郊外の私鉄駅から徒歩 10 分のところに、自宅に隣接する 450 坪の未利用地を所有していました。固定資産税の負担を重く感じていましたが、自宅続きなので納税用地とする考えはありません。ほかに所有している土地を納税用地として確保していました。
結局、Dさんは「ここは駅から歩けるし、バス停の前なのでマンションにして収入を得よう。更地にしておくより、貸家建付地になれば相続税対策にもなる」と考えました。そこで、総工費 4 億円で三階建ての賃貸マンションを建てる計画を進めることになりました。
契約直前になって、 D さんは冷静に考えました。周辺の賃貸物件の情報を調べてみると、「最近、うちの周辺のアパートやマンションで空室が出るようになったと思ったら、駅前の賃貸マンションでも空室が出ている」と気がつきました。
実際、周辺のマンションは、新築当初、2DK 12 万 8 千円で入居者を集めましたが、入居者がないので、半年後、 11 万 8 千円に値下げをしてもほとんど効果はありませんでした。それも、そのはずです。駅に近い新築の賃貸マンションが、2DKの家賃が 11 万 5 千円でも空室が目立っていたのです。
貸出先を選定している金融機関はDさんの土地に建てる賃貸マンションはリスクが少ないので、「金額借入でも安心です」と勧めます。仕事が少なくなっている建築業者も「ここはいい土地です。すぐに入居者で埋まりますよ。安くしますから任せてください」といってくるでしょう。周囲の誰もが勧めるので、何の疑問も持たなくなります。
とくに郊外型賃貸マンションを建てようとするときは、周辺の家賃相場だけでなく、賃貸マンション事情を自分で調べることです。駅前の不動産屋に行けば、賃貸マンションの空室状況がすぐにわかります。Dさんも「駅に近いマンションに人が入らなければ、徒歩 10 分のところにマンションを建てても入居者が集まらない」と考え直しました。
当然、Dさんには固定資産税の負担があり、未利用地から何らかの収入を得る必要はありました。
私たちの提案は「介護施設 ( 有料老人ホーム ) 」でした。土地オーナーが有料老人ホームの建物を建設して、介護事業者に建物を賃貸する活用法です。
その理由は、次の通りです。
@幹線道路沿いではないので外食店の出店はむずかしく、 450 坪ではスーパーの出店には狭い。
A近くにコンビニがあり、買い物に便利。
B地元にはグループホームはあるが、有料老人ホームがなく需要がある。
C介護施設を開設するときに必要な都道府県知事の認可を受けるには、賃貸借契約期間を 20 年以上にする義務が介護施設運営業者にあり、長期・安定した収入が見込まれる。(ただ、契約更新されないこともあるので、借入金の返済期間は 20 年に設定する必要がある)
介護事業者は居室が何部屋とれるかで、採算性を判断します。 450 坪の敷地に、三階建て 45 室を確保できれば十分採算にのると介護事業者は判断するでしょう。
予想される総建設費は 4 億円で、賃貸料は年間 4380 万円が期待されるので、建設費を全額負担しても、アパート、マンションが満室になった状態の利回りと大きく違いません。賃貸物件の場合の10%以上の空室リスクを考えれば、利回りとしては満足できる水準です。
さらに、介護事業者と長期賃貸借契約ができるので、土地価格が下がっても、安定した収入が得られます。建物の日常的な補修は、賃貸マンションであれば、オーナーの負担になりますが、介護施設の場合は実質的に介護事業者の負担で行なわれることが一般的です。
介護施設での土地活用は土地オーナーにとって長期で安定した収入が得られるだけでなく、地域貢献、社会貢献をするという満足感を得ることもできます。
逆に、駅前の土地であれば、介護施設でなく、賃貸マンションのほうが利回りの高い計画ができるでしょう。また、幹線道路沿いであれば、外食店、スーパーに建物を賃貸することも考えられます。
しかし、このケースのように、駅からの距離、道路付け、周辺環境から、そのどれもがむずかしいときは、有料老人ホームやグループホームなどの介護施設を賃貸する活用法を検討してみてください。
高齢化社会の到来で考えにくいことではありますが、 20 年の賃貸借契約をしたのにもかかわらず、介護業者から中途解約を申し出てきたときのことも考えておきましょう。中途解約のリスクを少なくするには、中途解約のペナルティとして「残る契約期間分の賃貸料を運営業者が一括して支払う」とか「中途解約時の借入金残金分を運営業者が負担する」といった条項を契約に盛り込んでおくことが必要です。
建物が古くなった≠るいは経済情勢の変化≠ネどを理由に、契約期間途中で運営業者が「賃料値下げ」を求めてくることがあり得ます。交渉の結果、賃料が下がることを見込んだ上で、借入金の返済額や返済期間をシュミレーションしておくことは必要でしょう。
期間満了の半年前に独身寮の撤退を一方的に通告される
Eさんは 10 年前、駅からバス便の工業団地に近い土地に、工業団地内の企業からの要請で延べ床面積 400 坪の独身寮をつくり、賃料月 130 万円で賃貸しました。
Eさんは借り手が大企業なので安心していました。たしかに、賃料が滞ることはありません。ところが、 10 年間の賃貸借契約の満了日の半年前、「工場を閉鎖することになった。ついては独身寮も閉鎖するので賃貸借契約は断続しない」との通告を受けてしまいました。
3 億 4,000 万円の建設費のうち、自己資金を 6000 万円で、残る 2 億 8000 万円は金融機関からの借り入れで調達していました。この借入金は 20 年の返済計画であったので、まだ 1 億 6,000 万円の残債がありました。Eさんは企業の担当者と話し合いましたが、「取締役会の決定なので、変更はできない」という返事が繰り返されるだけでした。
このままでは、借入金を残しながら、収入がない建物が残るという最悪の事態しか見えてきません。思いあまったEさんが相談にみえました。
Eさんの依頼は、「現在の所得を維持できる活用法を提案してほしい」ということでした。
私たちは対応策として、
@ 賃貸マンションにコンバージョンする。
A 建物を解体して、新たな有効活用を考える。
B更地にして売却し、資産を組み替える。
C 独身寮として、新しい入居企業をさがす。
の 4 案を検討しました。
その結果、
@は、バス・トイレが各個室になく、新たに個室ごとに設置すると、ほかの改装を含めて改装費が坪 35 万円もかかり、新築する費用と大差がない。改装費も借入金でまかなうとすれば、返済負担はさらに増えてしまう。中廊下で両側に個室がある構造で、薄暗い雰囲気があって敬遠される。最寄りの駅までバス便しかなく、入居者確保が非常に困難で、空室リスクが大きい。
Aは、まだ借入金が残っている段階で、解体・新築の費用を借り入れることは、初期投資が回収できないだけでなく、返済負担増のリスクが大きすぎる。道路付けや周辺の環境から外食店、ホームセンター、コンビニのいずれにも適していない。
Bは先祖伝来の土地で、親戚の目があり売却しにくい。また、Eさんには自分の目が届かないところに資産を持つことに抵抗がある。
ということで、結局、Cしかないということになりました。
そこで、新しい入居企業さがしをスタートさせました。
問題は地価の下落に伴い、これまでの賃料月 230 万円を維持することがむずかしいことでした。賃料が下がることは覚悟しましたが、駅からバス便ということがネックになり、「いま若い独身者はバスを使わなければ街に出られないようなところには住まない」といわれ、なかなか借り手が見つかりませんでした。
やっと見つかったのは、独身寮としてではなく、作業所として使いたいという立ち退きを迫られていた仕出し弁当の会社だけでした。共同風呂場は資材置き場にして、トイレも各階にあればいいということで、大掛かりな改装も必要がなく、借主である会社の負担で改装するという条件になりました。しかし、提示された月額賃料は 145 万円というものでした。
それでも、建物を壊したり、大幅な改装をする費用を考えると、その賃料で貸したほうがEさんの負担は少ないと判断し、その会社に貸すことをEさんに了承してもらいました。このケースは「返済が滞っているよりいい」という消極的な延命措置しかできませんでした。
そこで、新しい入居企業さがしをスタートさせました。
問題は地価の下落に伴い、これまでの賃料月 230 万円を維持することがむずかしいことでした。賃料が下がることは覚悟しましたが、駅からバス便ということがネックになり、「いま若い独身者はバスを使わなければ街に出られないようなところには住まない」といわれ、なかなか借り手が見つかりませんでした。
やっと見つかったのは、独身寮としてではなく、作業所として使いたいという立ち退きを迫られていた仕出し弁当の会社だけでした。共同風呂場は資材置き場にして、トイレも各階にあればいいということで、大掛かりな改装も必要がなく、借主である会社の負担で改装するという条件になりました。しかし、提示された月額賃料は 145 万円というものでした。
それでも、建物を壊したり、大幅な改装をする費用を考えると、その賃料で貸したほうがEさんの負担は少ないと判断し、その会社に貸すことをEさんに了承してもらいました。このケースは「返済が滞っているよりいい」という消極的な延命措置しかできませんでした。
このオーナーの失敗原因は、いろいろあります。
まず、もともとの建築費が高かったことです。これは知人に紹介された地元の業者一社だけに見積もりを依頼し発注したことに原因があります。このため、建築コストは坪当たり 85 万円にもなっていました。せめて、数社に見積もりを依頼し、さらに交渉することで、 60 万円台になったでしょう。
次に、契約期間に合わせて借入金の返済計画を立てるべきでした。「新しい工場を進出させたのだから、 20 年、 30 年は借りてくれるだろう」と考えるのは、我田引水というものです。いまの企業経営は、実にドライです。採算が合わない工場は、操業開始から日が浅くても撤退を決めてしまいます。会社経営としては、当たり前のことでしょう。
契約期間内に借入金を返済しようとすれば、返済負担は重くなります。Eさんは毎月の返済額を少なくして表面上の利回りを高くするために、借入金の返済期間を契約期間に合わせなかったのでしょう。契約が更新されないことを想定すれば、返済期間を契約期間に合わせることは必須の心構えといえます。契約が更新されない場合でも、借入金がなければ、新たに借り入れることを含めていろいろな手を打つことができます。
そして、最大の失敗は「この人口減少、産業空洞化が進む時代に、バス便しかない立地に他に転用がむずかしい建物を建ててしまった」ことにあります。このことが再活用を阻む一番の要因でした。
隣地と共同で売却することにより売却価格を40%UPできた事例
Fさんは親から相続したアパート敷地 120 坪を所有していました。アパートが老朽化して空室が出るようになり、土地をどう活用するかを考える時期になっていました。
Fさんは別の場所に自宅を持っていたので、@アパートを解体して賃貸マンションを建てる、A入居者がいなくなったら、土地を売却するという方針を立てました。しかし、「もっと、有効な方法はないか」と相談にみえたのです。
私たちは現地と周辺を調査しました。そして、「容積率 80% 、 120 坪の敷地では広めの1Kが 10 部屋しか確保できず、しかも駅から徒歩 10 分の条件では空室率が高く、賃貸マンションはリスクが大きい」という結論を伝えました。
また、アパートを解体して更地にして売却した場合、坪単価は 85 万円で全体の価格は 1 億 200 万円です。その資金で高収物件を購入することで、資産の組み替えは可能です。事業用資産の買換特例を使えば、解体費用や売買諸経費を引いて、Fさんには約 8000 万円以上の資金が残りますが、私たちは次の提案をしました。
この土地の隣接地は 120 坪の角地で、やはり古いアパートが建っていて、空室が目立っていました。この土地のオーナーさんも「どうすればいいの」と悩んでいることは察しがつきます。そこで、Fさんの土地と一緒に、 240 坪のまとまった土地にして売却するのです。 240 坪の敷地であれば、容積率 200% の角地が入ることで全体の容積率も上がるので、マンション業者も土地購入の意思を表しました。
隣地のオーナーは、重荷になっていた古いアパートを維持する負担がなくなるので、価格面の交渉はスムーズに進みました。
そこで 240 坪の角地≠マンション業者に売却することにしました。この土地はマンション用地として魅力的なものになったので、坪単価 120 万円で売却することができました。
この損得計算は簡単です。
もともとのFさんの土地は< 120 坪× 85 万円= 1 億 200 万円>で、角地は< 120 坪× 90 万円= 1 億 800 万円>ですから、それぞれの価格合計は 2 億 1000 万円になります。この土地を一緒に売ることで< 240 坪× 120 万円= 2 億 8800 万円>になったのです。Fさんは< 120 坪× 120 万円= 1 億 4400 万円>で売却できたので、 4200 万円も高く土地が売れたことになります。
Fさんは自己資金と事業用資産の買換特例を使って、 1 億 2000 万円で都心の収益物件を購入して、毎月 80 万円の家賃収入を得ています。これから修繕費が大きくかかるアパートを確実な収益物件に組み替えることができたのです。
立地を活かし独身寮を有料老人ホームへコンバージョン
Gさんは10年前、300坪の土地に、一部上場企業からの要請で2階建て・延べ床面積300坪(27室)の独身寮をつくり、サブリース会社に年間賃料1700万円で貸しました。建設費は金融機関から融資を受けましたが、すでに完済しています。
ところが、更新時期を前に、「独身寮を廃止することを決定した。したがって、契約満了日に退去する」と通告を受けました。Gさんは地元の不動産業者に再テナント依頼をして1年にもなるのに次のテナントが決まりません。しかも月額100万円に賃料を下げても決まっていなかったのです。この段階でGさんは相談にみえました。
私たちは、独身寮の活用法をいくつか検討しました。
このケースは「独身寮の撤退」事例と同様に、再び独身寮として借りる会社はなく、賃貸マンションへのコンバージョン、建物を解体して新たな活用法を見つける、といういずれの方法も難しいと判断しました。
しかし、前述までのケースと異なるのは、Gさんは10年契約だったので借入金の返済期間も10年に設定していたため、すでに借入金の返済が完了していることです。ここがポイントです。まだ、借入金が残っているのであれば、やはり、借入金の返済額分の賃貸収入があればいい、という選択肢しか残されていなかったでしょう。
私たちは、駅からの距離があることをかんがみて、有料老人ホームへのコンバージョンを提案しました。閑静な環境ですが車での便はよく、周囲に高齢者の人口が多いことから、この地域への進出を希望する介護事業者が多数あることはわかっていました。27部屋という規模がネックになって、運営事業者さがしは苦労しましたが、月額210万円、敷金1000万円で話がまとまりました。
独身寮を老人ホームに改装するための費用は、比較的少なくてすみます。古い寮は風呂・トイレが共同の場合が一般的です。さらに、厨房、集会所などの施設はすでにありますし、1部屋が20u前後という広さも老人ホームに最適でした。車いすを使う入居者がいるので安全性から中廊下のほうが良く、ドアなどを拡幅すれば認可条件を満たすことができます。ただ、2階建てであったため、エレベーターがなく、外付けでエレベーター設備を設置しなければなりませんでした。このため、3500万円の改装費をかけました、すでに借入金は完済しており、安定した収入が得られるようになったということで、全額を金融機関から借り入れることができました。
有料老人ホームのような介護施設は、20年以上の賃貸借契約を結ぶことが求められるから、長期安定した賃料確保でき、しかも空室リスクを心配することもありません。
このケースの場合、3500万円の改装費に対して年間賃料が約\2500万円ですから、1年半で回収できる計算です。
しかし、すべての独身寮が老人ホームにコンバージョンできるわけではありません。コンバージョンできるかどうか、賃貸を希望する介護事業者があるかどうかの判断は、専門家のアドバイスを得ながら勧めてください。
隣地を購入し街道沿い約1000坪の土地活用が可能に
Hさんは幹線道路沿いに所有する約 1000 坪の土地を、大手運送会社の駐車場として貸していました。年間賃料は 3000 万円ですが、契約更新を半年後に控え、さらに収入を増やす方法はないかと考えました。
私たちはHさんが所有する土地と別の幹線道路の間に、別のオーナーが所有する 30 坪の未利用地があることに注目しました。そこで、「Hさんの土地は一つの道路にしか面していないので、高い賃料が取れない。隣地を買い取って、二方面からクルマが出入りできるようになれば、立地条件は格段に高まり、高い賃料を交渉できる」と考えました。
隣地所有者 ( Iさん ) との交渉がはじまりました。隣地は更地のままになっていましたが、Iさんは「いまは土地を売るつもりはない」との返事でした。しかし、話を聞くうちに、Iさんは数年前に投資物件として購入したものの、これまで何の収入もないまま地価が下がってしまい、現在の地価では売る気がないことがわかりました。
ここで検討することは、Iさんが希望する売却金額で土地を買い取ったときの採算性です。
Iさんは、「地価は値下がりしているが、購入金額と同じなら売ってもいい」と条件を出してきました。それは相場の 1.5 倍、総額 5000 万円です。これにHさんが所有する土地の評価額 9 億 1000 万円に対する収入として、どれだけの賃料アップが見込めるのかがポイントになります。
隣地の買収資金 (5000 万円 ) を全額借り入れたときの年間返済額は 396 万円 ( 期間 20 年、金利5% ) です。隣地を買い取ることで可能になる年間賃料のアップ分が返済負担を上回れば、「隣地を買ってお釣りがくる」という計算が成り立ちます。つまり、現在の賃料 3000 万円が 3500 万円になれば、この計画はGOサインと考えました。
Iさんとの買い取り交渉の一方で、この賃料条件を提示して新しいテナント探しもスタートさせました。すると、この条件で土地と建物を借りてもいいという会社が 5 社ありました。
さらに詳細の交渉を進め、年間賃料は建設協力金の返済を差し引いた手取額で 7000 万円、建物の建設費は建設協力金方式で、建設協力金は契約期間中は無利息、中途解約の場合は建設協力金の返済は不要という条件を出してきた大型量販店を最終候補としました。
この結果、Iさんが提示した金額で買い取っても、土地価格に対する利回りは現在の 3.3% から 7.3% になり、十分採算がとれるという総合判断から、隣地を買い取ることにしました。
このように、自分が所有する土地だけでは満足できる収入が得られないときは、隣地を買い取ることで、土地全体の立地条件、利便性が大きく変わり、大幅な収入増を実現することができるケースがあります。こうしたケースでは土地を積極的に購入しても、地価下落のリスクより、収入大幅増のメリットのほうが大きいのです。
相続した駐車場をデザイナーズマンションに
Jさんは東京近郊JR駅から徒歩 12 分のところに、父から相続した 100 坪の駐車場を持っていました。年金生活に入ったことから、現金収入を得たいと考え、賃貸マンションの建設を検討しました。
知り合いの設計事務所に相談すると、「駅近くではないので、代わり映えがしないマンションでは競争力がないので、デザイン性を強調したデザイナーズマンションなら入居者が確保できる」といわれました。さっそく、不動産関連の雑誌を読むと「デザイナーズマンションは多少立地が悪くても入居者が確保しやすく、周辺の同規模賃貸マンションより高い賃料が取れる」と書かれていました。
Jさんは、設計事務所から提案があった、各部屋に吹抜があるメゾネットタイプを中心にした鉄筋コンクリート造四階建てにすることを決断しました。
資産された収支計画書は、 15 坪の部屋が 12 室で、賃料は周辺相場が月 11 万〜 12 万円なのに対して月 15 万円に設定されていました。諸経費込みの建築総費用は約 1 億 7500 万円(延床面積 192 坪、坪当たり約 91 万円)で、「相続対策になる」という金融機関の勧めで、全額を借り入れることにしました。そして、最終の年間収支は賃料収入が満室状態を想定した 2160 万円、借入金返済が年額約 730 万円(返済期間 30 年、金利 1.6 %)で、諸経費を差し引いた手取額は年額 1300 万円になる、とされていました。
Jさんは毎日のように建築現場を見て、ほかのマンションには負けないすばらしい外観、内部構造のマンションができあがるのを楽しんでいました。内心、「これなら、大丈夫」と夢もふくらみました。
さて、建物が完成し、入居者の募集がはじまりました。ところが、二ヵ月たっても二戸しか埋まりません。募集を依頼している地元の不動産業者に聞くと、「相場より三万円前後も高いと、いくらデザイナーズマンションといっても無理がある」といわれてしまいました。
やむを得ず、賃料を相場並みの月 12 万円に下げて、 5 ヵ月後、何とか満室にもっていくことができました。しかし、当初の入居者からの賃料値下げの要求も覚悟しなければならず、さらに、空室率が 20 %になることも考えられます。いずれにしても、収支利回りは当初の期待を大きく下回ります。
そのうえ、土地と建物の固定資産税を支払い、修繕費の積み立てをして、借入金利の上昇も考慮すれば、現金収入はほとんど期待できないかもしれません。
将来のことを考えるとリスクが大きいといわざるを得ません。
このケースの問題は、どこにあったのでしょうか。「土地活用をしなかったほうがよかった」と結論づける前に、賃貸マンションで確実に収入を得る手立てを考えてみましょう。
まず、デザイナーズマンションを選択したことです。これは立地を考えると間違いでした。デザイナーズマンションが魅力的に映るのは、多くの人が「この街に住んでみたい」と思う人気がある高級感が漂うエリアです。郊外にポツンとデザイナーズマンションが建っても、近隣の相場を無視した高い賃料は取れないし、賃料を相場と同程度にしないと周囲の賃貸マンションより空室率が高くなる可能性もあります。
次は、金融機関からの借り入れです。たしかに、現在のJさんへの融資条件は金利 1.6 %、返済期間 30 年です。しかし、収支計画書には、将来の金利上昇が見込まれていません。つまり、金利リスクをゼロと見ているのです。これは、あり得ないことです。
私たちは「賃貸物件を借入金で建てるときは、空室リスクだけでなく、金利上昇リスクを同時に考えて土地活用を考えなければいけない」と繰り返して申し上げています。
これからは空室の心配だけでなく、借入金の返済ができるかどうかを真剣に考えなければなりません。
どうしても借入金をおこして、賃貸マンションを建てなければならないとき、どうすれば金利リスクを少なくできるでしょうか。
@できるだけ自己資金を用意して、借入金の金額を減らす。
A自己資金がないときは、土地の一部を売却して、借入金を減らす。(事業用不動産であれば、事業用資産の買換特例が使える)
B返済期間を、できるだけ短くしても収支が合うように計画する。
Cできるだけ建築コストを削減する。
Bについては、築年数が経過するごとに修繕費がかさむようになるので、できるだけ早く返済負担をなくすと同時に、金利上昇リスクを少なくする、という意味があります。しかし、返済期間を短くすると、月々の返済額は増えますから、収支のシミュレーションを綿密に計算することです。これも専門家に任せたほうが確かな数字が出てくるでしょう。
Jさんは賃貸マンション市況の調査、金利上昇リスクの考慮、建築費の見直しなど、もっとていねいに構想を立てていれば、このデザイナーズマンションの建設は断念したはずです。
それでも、賃貸マンションを建設して収入を得たいと考えるなら、まず、デザイナーズマンションではなく一般的なマンションを並行して比較検討することと、土地の一部を売るなど何らかの方法で可能な限り自己資金を調達し、借入金をできるだけ減らし、返済負担、金利上昇リスクを少なくすることです。それでも、投資効果が出るかはきちんとしたシミュレーションをしなければわかりませんが、それだけの自己資金が準備できないときは、その段階でマンション計画は見直すべきです。
収益が上がる物件に組み替える知恵を持とう
収益をもたらさない資産は、ただ所有しているだけで、税金や維持に費用がかかればマイナス資産ということになります。そうした資産は、収益が上がる物件に組み替える(資産の組み替え)ことを検討してみてください。 ここで資産の組み替えの実例を紹介します。
Kさんは金融機関の勧めで、所有する市街化農地に賃貸マンションを建てる計画を検討していました。Kさんにとって土地活用ははじめての経験でした。それでも、金融機関から紹介された建設会社4社から提示された、さまざまな建設計画を検討すると、どのプランもKさんが納得できる収支になっていません。そこで、私たちに「どの建設プランを選べばいいのでしょうか?」という相談がありました。
私たちは改めて、それぞれのプランを精査してみました。やはり、Kさんの指摘する通り、収支は悪く、しかも建設費を全額借り入れたときのリスクが大きいと判断できました。Kさんに「とりあえず、賃貸マンションの建設計画を白紙に戻しましょう」とアドバイスをして、現地を見てみることにしました。
その土地は、たしかにマンション業者やデベロッパーにとって魅力的な立地でしたが、個人が建設費を全額借り入れて賃貸マンションを建てるにはリスクが大きすぎました。
Kさんは「農地のままではたいした収入にならないし、市街化農地なので固定資産税の負担も大きい。何か手を打ちたい」という強い意向を持っていました。私たちが提案したのが、資産の組み替えです。具体的には農地を売却して事業用資産の買換特例を使えば、手元に2億7000万円が残ります。さらに1億円を借り入れて、合計3億7000万円で都心のオフィスビルを取得するのです。
農地の売却代金があるので借入比率は低くなり、都心のオフィスビルは満室状態なので、高い利回りが期待できます。
初期投資額=3億7000万円
年間賃料収入=約2600万円
借入金の年間返済額(返済期間 20年、金利2.375%)=約630万円
固定費(固定資産税、都市計画税、管理費など)=約500万円
手取=約1470万円
Kさんは年間1500万円近い現金を得ることができるため、私たちの提案を受け入れました。先祖から受け継いだ土地を手放すことに抵抗はあったでしょうが、現在、Kさんは「思い切って実行してよかった」と喜んでいます。
このケースの場合、全額借入で郊外にマンションを建てた場合、空室リスクや金利上昇リスクが伴いますが、購入したオフィスビルは空室リスクは少なく、借入金が少ないので金利リスクも相対的に低くなります。そのため、Kさんは大きな収入が期待できない農地を、安全確実な収入が長期にわたって得られる健全な資産に組み替えることを選択しました。
Kさんが先祖伝来の「土地」にこだわるのではなく、先祖から受け継いだ「資産」を守るためにに何をすべきかに気づいたことが、資産活用が成功した最大の理由ともいえます。
実は、私どもはKさんに資産の組み替えと同時に、所得対策と将来の相続対策をあわせて提案をしました。それはKさんの家族が出資者になって同族法人を設立する方法です。