オーナーが気づかない大きな落とし穴がいっぱい
土地オーナーのところに土地活用を勧める不動産業者や住宅メーカーまたは金融機関が、いかに土地活用が有利かを納得させようと、高い投資利回りの根拠や有利な契約条件、リスクが少ない方策など、いろいろな提案を持ち込みます。
相手はプロですから、一方的な説明を受けるだけでは「その通り」と思う内容ばかりで、素人である土地オーナーの質問には簡単に答えてしまいます。
これから説明する事業計画書や賃貸契約書、家賃保証のチェックポイントをお知りになったうえで質問をすれば、相手は「このオーナーは手ごわいぞ」と思うはずです。
安易に更地を貸家建付地にしてはいけない
相続税評価額は、ご存じのように更地の場合、評価額そのものが課税対象額になります。ところが、更地にアパートや賃貸マンションを建設すると「貸家建付地」になり、借地権割合と借家権割合に比例して評価額が下がります。
借家権割合は地域によって違い、全国ほとんどの地域が 30 %、大坂国税局管内の市部などは 40 %です。借地権割合は、道路によって異なり、路線価図で確認する必要があります。たとえば、路線価で< 360D >と表示されていれば、< 1 u当たり 36 万円、借地権割合が 60 %>という意味になります。( A = 90 %、 B = 80 %、 C=70 %、 D = 60 %、 E = 50 %、 F = 40 %、 G = 30 %)
たとえば東京で< 360D >になっている土地に貸家が建っていると、< 60 %× 30 %= 18 %>の評価減になり、更地評価額の 82 %で相続評価額として申告できます。
ですから、相続税対策として、更地に賃貸マンションを建てることが有効な節税方法になる、といわれています。だからといって、安易に更地を貸家建付地にしてはいけません。
わたしたちは空家建付地≠ニいっていますが、評価減を期待するより空室が多い方を問題にすべきです。空室が多くなりマンション経営が赤字になれば、評価額が 82 %になる効果を相殺してしまうどころか、評価減以上の資産(現金)持ち出しになる可能性があるからです。
相続対策の落とし穴 - 担保権がついている土地は物納できない
貸家建付地にして相続税評価額を下げることができたとしても、逆に相続税対策にならないこともあります。評価額を下げることよりも、相続税をいかに納付するかがもっと大切なことだからです。
多くの場合、貸家や賃貸マンション、アパートを建てるとき、さらに相続税対策になると考えて建設費を金融機関から借り入れるケースがよくあります。それは、借入金の残高を相続財産から控除することができるからで、金融機関がよく勧める節税方法です。そこに、落とし穴があります。
相続税の納付について物納という方法があります。物納できる資産は別表のようにいろいろありますが、同じ不動産でも収益性の悪い土地を物納することで、収益性の高い土地を残し、資産を守ることになります。
本来、遊休地を納税 ( 物納 ) 予定用地として確保しておけば問題はありません。しかし、「納税予定地を更地のままにしておくのがもったいない。アパートを建てれば家賃が入って、相続税評価額も下がる。相続が起きたときは低地を物納すればいい」と考えて、本来、納税予定地にしておくべき土地に資金を入れてアパートや賃 貸マンションを建てた場合に大きな問題が起こります。
金融機関から建設費を借りたとき、金融機関は建物を建てる土地を担保にします。そのため、貸家建付地には金融機関の抵当権がついてしまいます。そして、借入金が返済できないうちに相続が起きたとき、「抵当権がついた資産は物納できない」という規定があることに気がつくのです。
何もしないことが正解だった
この場合、どうなるのでしょう。
当初の考え通り、貸家建付地の土地を物納しようとすれば、金融機関から担保をはずしてもらわなければなりません。「今度は自宅を担保にする」といっても、簡単に担保替えはできないことがあります。
現金をつくろうと、貸家建付地を売却しようとすれば、第 1 章で説明したように売却価格はおそろしく安くなります。それでも足りなければほかの不動産、つまり収益性の高い土地を売却することになります。
物納が無理で「延納」にした場合は、どうでしょう。延納は元均等払いなので、はじめのころの納付額が大きく、家賃収入のほとんどを延期に回さなければならない事態も考えられます。もし、金利が上がって借入金の返済負担が大きくなって、延納資金が不足すれば、別の資産を食いつぶすしかありません。また、延納の利子は経費にもなりません。
この場合、「納税予定地として決めたら、何もしない」ことが正解だったのです。それでも「更地のままでは評価額が高い」という意見があるでしょう。どうしても節税対策をしたい場合、確実で具体的な納税方法を確保したうえで判断することです。
落とし穴の多い「事業計画書」のチェックポイント
住宅メーカーや建設業者、不動産業者および金融機関は、土地オーナーに「ここでマンションを建てれば、このくらい収益があがります」という説得材料として、「事業計画書」を作成してきます。そこには建物の概要、建設コスト、資金計画(借入金と返済計画)と、家賃収入から借入金返済額、経費、課税額などを差し引いた利益を時系列で計算した収支計画書が添えられています。
担当者によっては、それぞれの項目について細かい説明をせず、最終的な収益だけを強調して「わが社に任せていただければ、一番収益が上がります」とアプローチしてくることがあります。この場合、数字を比較しただけで業者を選んではいけません。いろいろなチェックポイントがあります。
まず、建物の概要です。見積もりが常識的なコストを大きく下回るときは、要注意です。本来、建設会社は建設費が高い物件を受注したほうが利益率が高いので、顧客が考える予算の範囲内で、できるだけ高い見積もりを出したいところです。他社に負けたくないために安い見積もりを出すことはあっても、ほかより極端に安い見積もりを出すということは、質の悪い仕様で見積もっているか追加こっじを多くしようとしているかを疑うことです。
内装・設備も、各社によって標準設備の基準が違ってくるので要チェックです。「給湯設備」と書いてあっても、どんな給湯設備なのか、詳細を確認します。シャワーを浴びられるだけの給湯器なのか、追い炊きができるかで入居者の評価は違ってきます。見積書で設備の品番を表示されてもわかりませんから、商品写真を見せてもらい、具体的な性能を説明してもらうことです。
当初の見積もり額が安いときは、廉価設備が標準品になっていることがあります。オーナーが希望する性能を持つ設備を設置しようとすると「それは別注文なので、割高になります」といわれ、どんどん見積もりが高くなっていくことになります。見積り額は、同じ性能の設備でそろえて比較検討しなければなりません。同じような性能、品質の設備で見積もりをしてもらうと、内装・設備の見積り額は大きく違わないものです。
気をつけなければならないのは、「請負工事費に変更追加が生じた場合は、別途追加契約をする」という項目です。付属している住宅設備がどれくらい充実しているかをチェックする必要があります。
最初から悪意がある建設業者は、質や性能が劣る設備や仕様で見積もったり、当然、必要な設備を計画に計上しないことがあります。そして、この仕様にしたほうが入居者が集まりますよ」などといって、コストが高い仕様、設備に変更させるのです。
金利見通しと家賃収入が甘い収支計画書に要注意
第3章でも説明しましたが、将来の金利の動きと家賃の値下げは収益に大きく影響してきます。
収支計画で、借入金返済額算出の前提になる金利水準を、いまの低金利のままにしている場合は要注意です。あるケースでは「変動金利の場合、年間返済額は金利の動向によって変わります」と注意書きをしているのに、「本資料は金利が一定として算出してあります」と矛盾する記述が堂々と記載されている例も多くあります。これでは「この業者の金利の見通しは甘い」などという次元を通り越して、「これではウソをついている」としかいえません。
オーナーがシビアに予想する返済期間中の平均金利で、返済額を算出してもらうことです。
家賃収入も築年数に比例した家賃の値下げと空室率の増加を、どこまで見込んでいるかです。私たちは築五年が経過すると空室率をシビアにして収支を見ます。退居したあとのリニューアル工事の期間、次の入居者募集の期間を考えれば、すぐに2〜3ヶ月は経ってしまいます。もし合計 10 部屋のアパートで年間3部屋で入れ替えがあれば、1部屋が6〜9ヶ月間は空室になったことと同じです。たとえ新築であっても、つねに完全満室ということは考えられないのです。
同様に、新築で設定した家賃水準が維持できるのは、立地にもよりますが、せいぜい五年間でしょう。五年目以降は二年ごとの更新のたびに数%ずつ値下げをする予定で、収支計画を立てるほうが現実的といえます。
にもかかわらず、借入金の返済期間中、新築時の家賃で収支計算をする業者もあります。それだけで、その業者の信頼性を疑わざるを得ません。
あまりにずさんな収支計画書の具体例
81 ページ ( 第 3 章 ) で紹介したアパート建設をやめた例の提案内容を説明しましょう。
建築のための総投資額は約3800万円で、金額借り入れで収支計画書がつくられていました。私たちは、その収支計画書を見て、あまりに甘い見通しが書かれていることに驚きました。もし、計画書通りのアパート経営ができれば、土地オーナーにとって実に魅力的な投資になります。しかし、私たちは「この計画書のようにアパート経営はできません」と結論を出して、「いまは土地活用は考えないほうが資産を守ることになります」とアドバイスしました。
どこが甘い見通しなのかを説明していきましょう。
建築費も割高、空室率も非常識な数字を設定
まず、建設概要です。
工事費は建築費と外構費および諸経費を合わせて3800万円です。うち建物の建築費は3480万円で延べ床面積は 52 坪ですから、坪当たり単価は約 67 万円になります。この建物に特別注文はありませんから、軽量鉄骨の集合賃貸住宅としては明らかに高いといえます。これは金融機関が紹介してきた一社だけに見積もりを出させたためです。建築費については、別のいくつかの建設業者に見積もりを出させれば、平均的な単価になるでしょう。これは競争の原理が働くからです。
次に賃貸収入の見通しです。
計画書では1 K が六室で、一室当たり月7万 5 千円の家賃を見込んでいます。その駅から徒歩 4 分にあるアパート家賃の相場は 7 万 5 千円ですから、高めに設定しています。おそらく、値下げをしなければ空室だらけになってしまうことは目に見えています。
それ以上に大きな問題は、返済が終了するまでの 30 年間、家賃を月 7 万 5 千円のままで設定していることです。これは常識的に考えられません。アパートは築 10 年が経過すると老朽化が目立つようになって、空室リスクも高くなるはずです。空室リスクを下げるためには、家賃を下げることはやむを得ません。にもかかわらず、 30 年間、新築当初の家賃を取り続けることができる、という内容の収支レポートでした。
また、空室リスクも「空室率考慮」として、年間家賃収入を満室状態の 540 万円に対して 513 万円を設定しています。空室率5%です。これも空室リスクを低く見過ぎています。
支出面でも甘さが目立つ
こうした甘い見積もりで計算された収支計画によると、不動産関連税を納め、借入金を返済したあとの毎月の手取額は当初5年間平均で24万4500円、年間293万4000円、投資資本利回り ( 年間手取額÷投資金額 ) は 7.7 %と提示されています。
この利回りを見れば、ほとんどの土地オーナーは「それならアパートを建ててみよう」と思うでしょう。でも、見通しの甘さは収入 ( 家賃設定 ) だけではありません。支出面でも甘さが目立ちました。
まず、建物の維持費、修繕費用がまったく計上されていません。要するに「建てっぱなし」ということです。それではいくら家賃を下げても、入居者が集まらないし、どんどん退居者が増えるだけです。この住宅メーカーは「建物の修繕はオーナーの自己負担でする」ということをいいたいのでしょう。そうなると、オーナーは家賃収入の中から予想される修繕費を積み立てていかなければなりません。これは収支計画書に記載される表面利回りを高く見せるための作戦としか言いようがありません。
同様に、金利の見通しがあまりにずさんでした。金利上昇が返済負担に大きく響くことは、これまでにも説明してきました。この業者の収支計画書は返済期間 30 年で、当初 10 年間を1%、あとの 20 年間を2%に設定して、毎月の借入金返済額を計算しています。常識的に考えてください。この金利設定が、いかに甘いかおわかりになるでしょう。極端な高金利を前提に収支計算をする必要はありませんが、いまの超低金利をそのまま適用することは間違いといっていいでしょう。
こうした実に甘い収支計画書で、オーナーを説得しようとする住宅メーカーがあることに義憤すら感じます。
幹線道路沿いの広い土地を活用するときのポイント
道路沿いに広い土地を持っていても、駅から遠ければアパート、マンションを建てても入居者は少ないと予想することができます。しかし、車の通行量が多い幹線道路沿いであれば、いろいろな業種から「土地を貸してほしい。そこに店舗を建てて商売をしたい」という申し出もあるでしょう。
リスクが少なく、大きな収入が得られる活用法は、オーナーが自分の資金で建物を建て、店舗を構えたいと希望する企業に建物を貸すことです。
しかし、建物の建設資金を自分で借り入れれば返済負担が大きく、実質収入を減らします。どうすればいいのか?建設資金を建設協力金≠ニいうかたちで、出店を希望する会社に負担してもらうのです。会社が資金を負担した分、賃料が安くなることもありますが、借入金で建設するよりリスクは大きく減ります。
建築協力金方式によって金利負担を抑える
ロードサイドなどに出店を希望する会社に対しては、建設協力金方式を条件にすることがリスクを小さくする大切なポイントになります。
建設協力金は、土地オーナーが賃貸物件を建てる資金を、その物件を借りようとする事業者が差し入れる資金のことです。建設協力金方式は、ほとんどの場合、金利を負さないことが多く、そのことが大きなメリットになります。もし、建設費全額を建設協力金で充当できれば、土地オーナーは建設資金を金融機関から借り入れることなく建物を建設できます。
この建設協力金は、一般的に敷金と保証金に移し替えられます。土地オーナーは保証金部分の返済を差し引いた賃料を受け取り、契約解消時に敷金を返済することになります。金利ゼロの契約であれば、賃貸期間中、市場金利が上がっても保証金の返済額は一定で、金利の変動は利回りに影響しませんから、初期投資に対する金利リスクがなくなります。
ただし、事業者によって建設協力金の取り扱いが違います。建設費全額を差し入れるケースもあれば、一部しか差し入れないケースもあります。また、敷金と保証金への割り振りも各社バラバラです。
建設協力金方式は金融機関から借り入れるよりずっと有利なので、事業者を選ぶときは、どこまで建設協力金を差し出してもらうかは重要なポイントになりますが交渉力次第という一面もあり、専門家を通して交渉すべきです。
信用力のある企業をどう選ぶかが決め手
もちろん、出店を希望する会社は信用力があって契約をしっかり守る会社を選びます。「建物を建てて貸してほしい」と申し出があったとき、「あの会社の担当者は、よく訪ねてくる。人も良さそうだし、あの会社に決めるか」と情を判断材料に入れてはいけません。あくまでもビジネスの交渉であることを忘れないことです。
あとは「入札」と同じです。多くの企業から契約条件を出させて、その中から土地オーナーにとって一番有利な条件を提示した会社を選べばいいのです。入札に参加する会社が多ければ多いほど、選択の幅が生まれるし、出店を希望する会社が多ければ競争の原理が働き、よりよい条件を示す会社が出てくるでしょう。
各社担当者の来訪を待っていては、入札に参加する会社の数はたかが知れています。こちらから積極的に「この土地に進出を検討しませんか」とアプローチすることも必要ですが、オーナーには、どこの会社の、どの部署に電話をしていいのかわかりません。そうしたとき、信用力があり店舗展開に積極的な会社の情報をよく把握している専門家に相談して判断するべきです。
「集客力」のあるなしが絶対条件
出店を希望する会社の担当者は「集客力があるうちの店舗ができれば、周囲が活性化され、あなたが近くにお持ちのほかの土地も新しい活用法が生まれます」というかたちで説得することがあります。
これは、その店舗が成功するという前提で、間違いではありません。かつてダイエーは土地価格が安い都市郊外に土地を購入し、店舗を建てる戦略をとりました。ダイエーに客が集まると、周囲に外食チェーン店や自動車展示場、パチンコ店などができ、寂しかった幹線道路が渋滞するほど様変わりしたケースが全国にありました。すると、ダイエーが買った土地自体が値上がりします。値上がりした含み益で、再び金融機関から資金を借り入れて次の店舗を展開するというやり方で全国展開を進めていったのです。この店舗戦略はバブルの崩壊、地価の下落で頓挫し、いまダイエーは再建途上にありますが、集客力がある店舗が進出すると、地域全体が活性化することを証明しました。
要するに、会社選びでは「集客力」が大きなポイントになります。いままで何の活用法も見つからなかった周辺の土地が見直される可能性があるからです。
総合判断はプロに任せる
とはいえ、各社が示す条件は単純な比較ができません。賃料は A 社が一番高いが契約期間が短すぎる、 B 社は契約期間が長いが建設協力金が少ないといったように、それぞれの条件に一長一短が出てきます。そこで総合判断≠ェ求められます。単純に土地オーナーにとって有利な条件とは@賃料が高い、A建設協力金が多い、B契約期間が長い、といった点になりますが、専門家であれば土地オーナーの立場に立って、最も有利でリスクの少ない条件を出した会社を選ぶことができるはずです。
「解約」の条件はリスクを最小限にできる内容で
これらの条件と同等、あるいは同等以上に重視しなければならないのは「中途解約」の条件です。
賃貸期間を 15 年、 20 年という長期で契約したとしても、安心はできません。どの会社も赤字を出す不採算店については「立て直しができる見通しがなければ、できるだけ早く閉鎖する」という方針を、持っていますから、契約期間満了前に「実は店を閉めることになった」という申し出があることは覚悟しなければなりません。
そうした契約期間中の契約破棄、つまり中途解約になったときを想定して、土地オーナーのリスクを最小限にする契約内容にしておく必要があります。具体的には@建物協力金の残額を放棄してもらう、A残余期間の賃料を全額支払ってもらう、B残余期間に応じた違約金を支払ってもらう、などがあります。さらにC土地オーナーが建物を建設するために金融機関から借りた融資の返済が残っているときは、返済残高を負担する、という項目が盛り込まれればほぼ万全でしょう。
逆に進出会社にとって、中途解約の負担が大きくなるので、こうした契約はしたくありません。そうなると、土地オーナーと進出を希望する会社の力関係、交渉力が問われます。しかも、実際問題として、土地オーナーが自分に有利な条件を強く押し通すことは容易ではありません。やはり、ここでも専門家に相談をしながら計画を進めることが大切です。
家賃(賃料)保証のまやかし−「一括借り上げ方式」のワナ
住宅メーカーや建設会社は、土地オーナーにアパートやマンション経営を勧めるとき、不安を解消させるために「家賃保証」を条件に持ち出すことがよくあります。「この場所であれば、長期間、空室になる心配はほどんどありません。でも、ご心配であれば家賃保証という契約をすれば安心でしょう」というわけです。
「建物を管理会社が一括借り上げをして、空室が出ても借り上げ賃料は保証する」というのが一括借り上げ方式の家賃保証で、正確には「家賃保証」ではなく、「転貸条件付賃貸借契約」です。
一般的に管理会社は満室状態での全家賃収入から、保証料として10-20%程度を差し引いた金額をオーナーに支払います。家賃保証といっても、オーナーに家賃収入のすべてが入るわけではありません。ただ、空室が出たり家賃支払いが滞るリスクは管理会社が負い、建物の管理も管理会社が請け負いますから、オーナーは契約どおりの賃料が入ってくるだけで、ビル・マンションの管理の煩わしさから解放されます。
相手が「家賃保証」を持ち出す場合とは
とくにはじめてアパートやマンションを経営しようと考えている土地オーナーにとって、「家賃保証」は決断を促すポイントになることがあります。しかし、すぐに飛びついてはいけません。
アパートやマンション経営を勧める業者が「ここにアパートやマンションを建てても、入居者は必ず確保できる」と判断すれば、オーナーの手取りが減ってしまい、マンション経営を勧める説得力を失うので、あえて家賃保証を持ち出すことはありません。家賃保証をしなければならない物件というのは、そのアパートや賃貸マンションの経営が容易ではないことを意味しています。最初の段階で家賃保証を持ち出すときは、「業者のほうも自信がないな」と疑ってみることです。
逆のこともあります。家賃保証の契約が結ばれれば、建設業者の関連会社である管理会社に保証料が入るので、また、関連の建設会社に割高な工事を発注してもらうために積極的に家賃保証の契約を勧める営業活動をしているところもあります。その場合、入居者確保の心配はほとんどないような立地でも、家賃保証の契約をするように勧めます。
駅から 5 分以内であるとか、家賃保証をしてもらう必要がない立地であれば、家賃保証契約をして、手取額を減らすことはありません。
20年、30年の家賃保証でも実は大きな問題
家賃保証の契約期間は一般に10年前後が多いようですが、一部には20年、30年という長期契約がえきる管理会社もあります。しかし、「家賃保証があるから安心」とか「契約は長いほうがいい」と考えるのは早計です。これから説明するように、家賃保証にはリスクがあり、賃料は決して一定ではないことを、十分ご承知おきください。
考えてください。新築物件の場合、妥当な家賃であれば、入居者の確保は、それほど苦労はしません。入居者の確保がむずかしくなるのは、築10年が経過して外見・内装にも老朽化が目立ち始めるようになってからです。入居者の確保がむずかしくなって、大きな修繕工事をしなければならないころに家賃保証の契約が切れるのです。まず、ここに気をつけてください。
さらに大きな問題は、当初設定された家賃収入が契約期間中、ずっと保証されるわけではないことです。家賃保証、保証期間という言葉から「保証期間中は最初に決められた賃料収入が続く」と誤解しているオーナーが多く、トラブルの大きな原因になっています。確認しておきます。保証期間と家賃保証とは、別の話なのです。
どういうことでしょうか。契約書には、「賃料は家賃査定書に基づいた金額とする」とあります。これは周辺の家賃相場から算出された賃料に設定する、ということです。これは空室リスクを避けるためにも、当然のことでオーナーも納得できますが、実はここに保証家賃引き下げの伏線があるのです。
「賃料の改定」という項目には「賃料改定は賃料記載日より2年間経過ごととし、賃料改定日の1ヵ月前までにオーナーと管理会社が協議を行ない、賃料の改定日までに賃料の改定を行う」と記載されています。つまり、管理会社が現在の賃料が高くて入居者の確保がむずかしく、採算がとれる稼働率の維持が困難と判断したときは、オーナーと契約した賃料の引き下げを求めることができるのです。
さらに「本契約の賃貸借条件を維持することが困難な状況が生じた場合、オーナーと管理会社は協議を行ない、賃料改定日以前でも賃料を改定できる」という契約項目があれば、いつでも賃料引き下げを要求できるということになります。
つまり、「家賃保証」といっても、オーナーの希望とは関係なく、賃料決定は管理会社の意向が大きく働くのです。ですから、「うちは家賃保証の契約をしているから安心」というわけにはいかないのです。
管理会社の一方的な契約解除もありうる
契約によっては管理会社はオーナーに対して一方的に契約を解除することもできます。
それは、オーナーが土地、建物の一部あるいは全部を譲渡したときや仕様を大幅に変更したときなどですが、「著しい経済情勢の変動、天変地異、または建物の瑕疵などにより賃貸運営が困難になったとき」という項目があります。「著しい経済情勢の変動」は主観的な判断であり、いろいろな解釈ができます。当然、「家賃相場が大きく下落した」ということも理由になるでしょう。
オーナーは管理会社の賃料引き下げの要求を拒否することはできますが、「協議が整わない場合、本契約の期間途中であっても、オーナーまたは管理会社は ( 三ヵ月前に通告することで ) 本契約を終了させることができる」という項目によって、一方的に契約を破棄されることもありえるのです。
もし、管理会社の一方的な契約解除に納得できないときは、話し合いで解決できなければ裁判するしかありません。
最高裁判例 - 不動産会社は賃料の値下げを要求できる
(平成 15 年 10 月 21 日・第三小法廷・判決)
ある大手不動産会社が高層賃貸ビルをオーナーから一括借り上げして、年間家賃約 20 億円、契約期間 15 年で家賃保証の契約を結びました。
その後、賃料相場が下落したことで、不動産会社は年間賃料を約 15 億円に下げたあと、さらに約 5 億円まで値下げを要請しました。 5 億円では納得できないオーナーが裁判に持ち込みました。
第一審の地裁判決は「経済情勢の変化により賃料の値下げはやむを得ない」としてオーナーが敗訴したため、高等裁判所に控訴し、高裁では「値下げには合理性がない」という逆転判決が出てオーナーが勝訴しました。今度は不動産会社が最高裁に上告して、最高裁の出した判決は「不動産会社は賃料の値下げを要求することができる」とし、具体的な賃料の決定については高裁の判断に差し戻しました。
これによって「家賃保証の契約期間中であっても、借り手から賃料の値下げが要求できる」ということが判例になったのです。つまり、判例上も「家賃保証は保証にならない」ことを証明したといっても過言ではありません。
建物が完成しても賃料免責期間中の家賃は管理会社の収入に
家賃保証の契約を結ぶと、管理会社が入居者を募集します。オーナーへの賃料の支払いの開始時期は建物完成後、一ヵ月後から二ヵ月後とするケースが一般的です。この期間を「賃料免責期間」といって、実際は家賃収入があっても、管理会社からオーナーに賃料は支払われません。
中には三ヵ月の募集期間を設けて、家賃支払いは建物完成から四ヵ月後にしている管理会社もあります。管理会社は家賃が入ってもオーナーに支払う必要がないので、まるまる管理会社の収入になります。
さらに、家賃保証の契約をすると、一般的に敷金は管理会社が預かることになり、オーナーはまったく関知しません。敷金だけでなく、礼金、更新料もすべて管理会社が受け取り、退室者との精算を行うこともあります。そうなるとオーナーの収入は契約賃料だけです。敷金返済の交渉や計算の煩わしさはありませんが、予想外に収入が少なくなることを覚悟しておくことです。
最近、管理会社が敷金を受け取らず、オーナーに渡すことが増えています。これは敷金では新規募集時のリフォーム費用がまかなえないことが多くなったためで、その分、オーナーの負担が増えることを意味しています。オーナーが「費用がかかる大幅なリフォームは必要ない」と考えても、管理会社が「それでは入居者は確保できない」と判断すれば、契約解除の理由になることもあります。
オーナーの肩にのしかかる重い費用負担
オーナーは賃料収入の中から土地、建物の固定資産税を負担しなければなりませんし、入居者が電気、ガス、水道料金を未納にした場合もオーナーが支払うことになります。
オーナーの負担はそれだけではありません。「家賃保証契約」では、管理会社が行なう業務として@賃貸募集業務、A契約管理業務とともに「建物管理」があり、建物の管理は管理会社に委託することになっていますが、維持管理に必要な費用は、かなりの部分、オーナーが負担することになるのです。
たとえば、管理会社は「巡回点検をする」とあります。それは建物や付属施設の外観を目で見るだけの、いわゆる点検だけですませてしまったり、清掃も清掃の状態を点検するだけで、目についたゴミを拾う程度の管理をする会社も見受けられます。
もし、建物にイタズラ書きをされたり、植えた草木が枯れていれば、管理会社はオーナーに報告しますが、外壁を塗り直したり、木を植え替えたりするとすれば、その費用はオーナーが負担することになります。もちろん、地震、火災、風水害による損傷も、オーナーの負担です。
管理会社と別途「建物管理契約」を結べば、さらにオーナーの負担は増えるのです。
入居者が入れ替わるときは、室内をリフォームします。この際、管理会社が費用を負担するのは畳表の張り替え、襖の張り替え、内部壁の破損修理くらいで、必要な費用は預かっている敷金を使いますから、実質的な負担はありません。
ところが、オーナーは共有部分を含めて多くのリフォーム費用を負担しなければなりません。しかも、オーナーは敷金を預かっていませんから、それまでの賃料収入の中から費用負担をすることになります。しかし、これらの費用は、入居者を確保し続けるためには必要な費用なのです。
最近、「入居者から礼金、敷金、保証金を取らない」ことをセールスポイントにする管理会社が増えています。そうなると、リニューアルの費用はすべてオーナーが負担する場合もあります。
オーナーの負担はけっして軽くはならない
このように見ていくと、家賃保証はオーナーにとって安定収入を保証するメリットが多い制度とは言い切れなくなります。
家賃保証の契約をしても、オーナーは借入金返済の金利上昇リスクを抱えていることには変わりなく、固定資産税等の負担もあり、維持・修繕費用も負担しなければなりません。唯一、空室リスクはなくなりますが、それは契約賃料の引き下げというリスクに形が変わるだけですから、オーナーが抱えるリスクは何も変化がないということです。
私たちは家賃保証をすべて否定するわけではありません。オーナーにとってリスクが残り、負担もけっして軽くないことを知ったうえで、契約すべきだと申し上げたいのです。