安易に賃貸マンションをつくるべきではない
前章でも強調したように、いま、私たちは「土地オーナーが賃貸マンションをつくるのは、ちょっと待ったほうがいい」と判断しています。
それは、資本力のある大手不動産会社やデベロッパーが、各地で建設を進めている20階以上、数百戸規模の超高層マンションに人気が集まっているからです。
この超高層マンションも在庫が多くなることが予想されます。在庫となったマンションは賃貸市場に流出することも多くなるでしょう。また、高級マンションも値下げしていますから、一般の低層賃貸マンション・アパートの家賃が値崩れするのは当然といえます。おそらく、これから建設される賃貸マンションだけでなく、既存の賃貸マンションも厳しい経営環境を迎えようとしています。こうした時期に賃貸マンション、まして競争力がないアパートをあえてつくることはリスクが大きいと考えています。
しかし、どうしても土地活用をしたいという土地オーナーもいます。少しでも「これはむずかしいそうだ」と思われたら。土地活用を断念されることをお勧めします。そして、何もしない、相続税納付のための納税用地にする、資産の組み替えをするなど、別の選択肢を検討してみることです。
アパートを建てることをやめた事例
東京郊外、JR駅から徒歩 15 分のところに60坪の市街化農地がありました。住宅メーカーの営業マンが土地オーナーに単身者向けの1DKの二階建てアパートを建てるように勧めました。見積もりで出てきた諸経費込みの総建設費は 3800 万円で、全額借り入れです。
私たちは駅から 15 分、軽量鉄骨二階建て単身者向けの1DKのアパートと聞いて、すぐに「この計画はやめましょう」とアドバイスしました。しかし、土地オーナーは営業マンが提示した建設計画を諦めることができません。
そこで、土地オーナーに納得してもらうために、その地域の人口分布を調べました。1DKに入居するのは20代の若い人が中心と考えられます。ところが、その地域では20代の人口が減少しているのです。そして、今後も減り続けるだろうことは容易に予想できます。入居者対象となる若い人が減っている地域で、その人たちをターゲットにした賃貸住宅を建てていいものでしょうか。答えは、自ずから決まってきます。
足で集めたデータが結論を出させる
次に、周辺のワンルームマンションの販売価格を調べました。すると、駅から徒歩16分のところで平均1320万円で売られていました。もし、このマンションを35年均等払いのローンを組んで購入すると、今の金利水準では毎月の返済額は4万円台ですみます。駅からの距離に比例した家賃相場を調べると、駅から16分のワンルームマンションの平均賃料は6万6千円でした。
投資用ワンルームマンションを購入したときの返済額を考えると相場より安い賃料で貸すことができるのです。
しかも、この土地オーナーは、将来、相続が起こったときの問題を抱えていました。手持ちの現金がないので、本来、アパートを建てようとした土地は相続税納付のための納税用地として残しておく必要があったのです。
こうして私たちが足で集めたデータを示し、相続時の問題点を説明すると、土地オーナーは即座にアパートを建てることは取りやめました。
このケースは「土地活用はしないほうがいい」という典型的な例です。もともと住宅メーカーから持ち込まれたアパート建設計画自体がリスクの高い、やってはいけない土地活用法だったのです。
賃貸マンション・アパート成功の絶対条件は”便利”であること
賃貸マンションやアパートを成功させる絶対条件は利便性≠ナす。駅からの距離でいえば、理想的には徒歩 5 分以内、せいぜい 7 〜 8 分です。さらに近くにコンビニやスーパーがあることは魅力を高めます。駐車場付きは有料であっても大きな競争力になります。
駅から徒歩 15 分になると、家賃を安くしても入居者の確保はかなりむずかしいのが現実です。その場合、安い家賃を競争力にするしかありません。どのくらいの家賃にすれば入居者があるのかは、地元の不動産業者に駅からの徒歩時間と家賃の相関関係を聞くのが一番手っ取り早い方法です。
駅から徒歩 5 分で坪当たり 8 千円の家賃設定で入居者があっても、徒歩 15 分になると坪当たり 6 千円、あるいは 5 千円にしないと入居者の確保がむずかしくなる傾向にあります。
どういうマンションにするかを綿密に検討する
賃貸マンションを計画する場合において、どのような入居者を対象にするのかを細かく市場調査 ( マーケティング ) することが重要なのはいうまでもありません。たとえば、男性なのか女性なのか、単身者なのか家族向けなのか、また、入居者の年収によっても計画を考えなければなりません。年収が 300 万円の人と 600 万円の人とでは求める条件や品質は違ってくるのは当然のことです。
現在デザイナーズマンションやペットマンションなどのようにコンセプトを持ったマンションに人気が集まっているようです。
しかし、それぞれのコンセプトも次に述べるような問題点がありますから、綿密な市場調査 ( マーケティング ) を行ない、「どういうマンションにすれば採算が合い、長期的に安定した賃貸事業ができるか」を考えてください。
デザイナーズマンションはまず立地
一流の建築デザイナーが設計したデザイナーズマンションは外観と居室が洗練されていることから、幅広い層に人気があります。だからといって、「 2 〜 3 割高い建築費がかかっても、デザイナーズマンションなら高い家賃が取れて空室リスクも少ない」と考えて、安易にデザイナーズマンションを選択することは危険です。
いま、人気が高いデザイナーズマンションの需要が集まっているのは、東京都心の人気エリアです。街の雰囲気や住んでいる人、働いている人との一体感がなければ、デザイナーズマンションの魅力は発揮されません。極端にいえば、郊外にデザイナーズマンションを建てても、違和感があるだけです。
都心の場合でも「デザイナーズマンションだから空室率は極めて低い=vと決めつけることはできません。そのポイントは、やはり家賃設定です。同じような広さの賃貸マンションの家賃相場が月 15 万円の地域で、デザイナーズマンションが月 16 万円であればまだ競争力はあります。しかし、家賃を月 18 万円にしたら、かなりの空室を覚悟すべきでしょう。周囲の家賃相場に対して、どこまで上乗せしても入居者があるかの判断が重要になります。
いずれにしても、コストをかけてデザイナーズマンションを建てても、投資効率はけっしてよくないことは承知してください。
ペットマンションの経営は楽ではない
ペットブームといわれ、ペットと一緒に暮らせるペット同居型の賃貸マンションに注目が集まっています。雑誌などでもペットマンションは「少々立地条件が悪い場所で、高い家賃を設定してもペット好きの入居者を集めることができる」というメリットが強調されています。
そうしたメリットは過去においてありました、というべきです。いまは、「ペットマンションだから安心できる」というほどのメリットはありません。「ペット関連市場が拡大している」という記事がありますが、それは、ドックフードや服、オモチャ、さらには動物病院・美容院の売上げといった周辺市場が拡大しているのであって、ペット愛好者の数がそれほど増えているわけではないようです。現在では、ペットマンションのニーズを過大評価してはいけないのです。
では、家賃は相場に比べて、本当に上乗せできるのでしょうか。現実を申し上げれば、相場より一割高い家賃で入居者が決まれば成功といえるでしょう。多くの場合、相場並みの家賃になっています。それは、どこの賃貸物件も空室を抱えるようになり、「ペット可」とする物件が増えていることもあり、高い建築コストをかけてペットマンションにする意味が薄れています。メリットがあるとすれば、「一般の賃貸マンションより空室リスクが少ない可能性がある」という程度でしょう。
公的制度だからといって安心できない
いわゆる「特優賃」「高優賃」は、正式には「特定優良賃貸住宅」「高齢者向け優良賃貸住宅」という公的制度のことで、かなり一般的に知られるようになりました。
「特優賃」は、主にファミリータイプ賃貸住宅の供給促進のために、良質な賃貸住宅を建設しようとする土地オーナーに対して国・自治体が助成などを行なう制度です。「高優賃」は、良好な居住環境を備えた高齢者向けの住宅の供給を促進するためにできた制度ですが、いずれも各自治体によって制度はいくぶん違います。
たとえば、東京都の「特優賃」制度の適用を受けるには一定の基準を満たすことが必要で、現在、建設費助成が一戸当たり100万円を限度として、共同施設などの整備費の2/3が助成され、割増償却が可能になるなどの税法上の優遇措置(所得税・法人税・固定資産税)も受けられます。自治体によっては、さらに最長20年間の家賃補助(契約家賃と入居者負担額の差額を国と自治体が補助)があったり、低利融資・利子補給が受けられるなどのメリットもあり、この制度の利用を検討されている土地オーナーも多いと思います。
しかし、公的制度だからといって安易に適用を受けて大丈夫なのでしょうか。デメリットを考えてみましょう。
第一に、建築主(土地オーナー)が受け取ることができる契約家賃には限度が設定されてるため、相場家賃の80-90%の家賃しか収受できないことが多いこと。
第二に、入居者の負担額が毎年上昇する傾斜家賃が設定されていることから、将来、空室リスクの増大が考えられること。
第三に、入居者選定が「まちづくりセンター」に一任されているということ。築年数が経過して、入居者負担が増大するにつれて空室が増えた場合でも、「まちづくりセンター」等を経由して「指定法人」が入居者を決定しなければならず、手続上かなりの時間を要し、それによる家賃収入の減額が考えられること。第四に、建築費が割高になりやすいことです。
第四のデメリットについて、もう少し説明しましょう。「特優賃」は、建設会社が特命工事で受注する強力な武器になっています。通常の賃貸マンションだと数社の相見積もりにより競争の原理が働き、適正な工事価格になりますが、特優賃という「付加価値」がつくと、競争なしの特命受注が取りやすくなります。あおれは建築費が高めになりやすいことも意味しているのです。
建築費が高くなれば、借り入れリスクも大きくなります。返済原資を増やすために家賃を高く設定したいところですが、契約家賃には上限があり、空室リスクのことを考えると、それもむずかしいでしょう。
自治体のバックアップがあるから大丈夫」といっても、空室リスクはあります。空室になれば、当然、家賃は入りません。あわてて空室を埋めようと思っても、オーナーが自分で探すことは制度上では禁じられていますから、「これではまずい」と思って特優賃の適用をはずしてもらおうとしても、20年間は特優賃から転用することは禁じられています。
こうしたデメリットを考えると、「公的制度だから安心」とばかりはいえないようです。やはり、経済性を無視してはいけません。しかも、地方自治体の財政難から特優賃制度が破綻しないまでも、現行制度が未来永劫続くとは考えにくいところです。20年の適用期間中、契約家賃が減額されることも想定したほうがいいかもしれません。
また、公的制度とは違いますが、建物を公共施設として貸せば「借り主がお役所だから安心」と考えがちです。しかし、土地オーナーが建物を建て、警察署などの宿舎としてサブリースする場合でも、安心とはいえません。通常、10年以上の賃貸借契約となることが多いのですが、契約書には「賃料改定は2年ごと、予算の削減などによって契約解除ができる」という旨が記載されているのです。つまり、第四章で解説しています「家賃保証」と同じ落とし穴があるのです。
いずれにしても、公的制度だからといって、必ずしも安心とはいえないのです。公的制度の適用を検討するときも、長期的な展望に立った資金計画、リスク分析が必要ですから、専門家のアド倍しを受けることをお勧めいたします。
介護施設はローリスクだがローリターン
高齢化社会を迎え、高齢者向け施設の需要が高いことは間違いありません。介護施設には老人ホーム、特別養護施設、グループホームなどがあります。
ただ、いずれの施設も比較的広い土地が求められます。
この土地活用の場合、ほとんどは事前に希望する介護事業者を見つけ、その意向に添った介護施設を建てて、建物を賃貸するケースになります。
介護施設への賃貸事業は、ローリスク・ローリターンといえます。賃貸契約は行政の指導で 20 年以上で、原則、中途解約もできません。
一方、建物の建設費はマンションやオフィスビルに比べて割高になります。事業者は、管理がしやすい平面構造か低層の建物を求めます。さらに、一般の建物には必要がない設備や仕様も整えなければなりません。耐震構造や、たとえ二階建てでもエレベーターの設置、階段や廊下の手すりは絶対条件です。しかも、建設コストに合った高い賃貸料は期待できないことが多いようです。
しかし、オーナーには「社会貢献をしている」「幸せな老後を過ごすお手伝いができている」といった満足感、プライドが持てますし、長期にわたって安定収入は計れます。これは利回り計算には出てこない大きな付加価値といえます。
金利の考え方 - 金利上昇と家賃下落を十分、考慮する
アパートや賃貸マンションを経営しようとするとき、空室率をしっかりと見込んでも採算が合うと判断できれば、この点からは GO サインを出してもいいでしょう。しかし、金利上昇リスクを、どう見るかは別問題です。借入金の返済はオーナーにとって大きな負担です。借入金の額を決め、返済計画を立てるときは、今後の金利動向を、どう見通すかが大事なポイントになります。
金利動向を考慮して利回りを徹底的に検討しよう
「いまは金利が安いので、建築資金を借り入れても返済負担は少ない。賃貸物件を建てるチャンスだ」という判断は、はたして正しいでしょうか。
借入金で賃貸物件を建て、テナントを入れて賃料収入で借入金を返済して収益を得るという収支計算は、返済金の額によって利回りが大きく違ってきます。
超低金利で計算すれば、高い利回りが実現できたとしても、その金利が返済完了のときまで続くとは思えません。いまの超低金利が異常なのであって、今後、金利は上昇すると考えるのが常識的な判断です。現在金融機関の融資条件は変動金利制が一般的です。金利が上昇したときや、築年数が経過すれば賃料を下げることにもなるでしょうから、利回りがどこまで下がるかを、前もって予想しておくことです。
自己資金をどれだけ投入できるかも一つのカギ
金利については「不動産事業で融資を受けた借入金の利息分は、不動産収入から控除されるので、金利上昇のリスクはある程度、回避できる」といわれます。
これも疑問です。デフレの時代、お金を預けてもほとんど増えません。しかし、お金を借りたときは、しっかりと利息を取られます。つまり、いまの時代は借入をおこすべきではないのです。具体的に支払利息が収入から控除されて減る所得税額分と、支払利息の年間合計額を比べてみてください。おそらく、支払利息のほうが多いでしょう。
事業に必要な手元資金があれば、できるだけ借入金に頼らないで自己資金でまかなうことです。支払利息がない分、当然、利回りは高くなるからです。
家賃の下落率と空室率をシビアに考える
オーナーが一番気になる収益を大きく左右するのは、金利とともに家賃設定です。高い家賃が設定できれば、当然、利回りは高くなります。中には周辺の家賃相場を無視して、高い家賃を設定した収支計画書を提示する業者がいないこともありません。そうなると、建物は完成してもなかなか入居者が集まりません。地元の不動産会社を自ら回って周辺の家賃相場を確認することも大切です。
さらに、築年数の経過とともに、家賃の下落を見込まなければなりません。新築当初の家賃は 5 年続けばいい、とシビアに見たほうがいいかもしれません。入居者を確保するため、どこまで安くしなければならないかは、やはり不動産の専門家に聞いたほうがいいでしょう。
新築当初でもどのくらいの空室リスクを見込むかは大事なポイントです。満室状態を前提に収支計算をすれば、必ず収支は狂って狂ってきます。 5 年後の入居率が 80 %が妥当なのか、 10 年後は 60 %が妥当なのかは、土地オーナーが自分で判断することです。
”新築マンション=すぐに入居者で満杯”という考えは非常に危険
賃貸物件でも購入物件でも、誰でも人情として新築物件に入りたいと思います。「新築マンションなら、高い家賃でも入居者はすぐに入る」と考えてしまいがちです。この新築信仰≠ニもいえる不動産に対する一般的な価値観には落とし穴があります。
意外と思われるかもしれませんが、中古賃貸マンションより新築賃貸マンション の方が空室率が高い傾向があるのです。
なぜでしょう。答えは簡単です。新築マンションは同じ広さで、同じような設備でも、中古マンションより家賃を高く設定している例が多いのです。新築マンションの賃料が高いのは、多くの場合、建設費を借り入れているので、その返済負担があるため、どうしても高い家賃を設定せざるを得ないのです。中古マンションは、もともと家賃を安くしないと新築マンションには勝てないため、家賃を安くせざるを得ません。同じ広さなら中古マンションでも安い家賃のマンションを選択する傾向があるのです。
ですから「新築マンションだから入居者集めに苦労はない」と考えるのは安易というべきでしょう。
リニューアルでどう付加価値をつけるか
築年数が経過して賃貸マンションの空室が目立つようになった、あるいは賃貸店舗のテナントが見つからないというときは、リニューアルによって新しい付加価値をつけることが必要になります。どのように改装するかですが、単に外観や室内をきれいにしただけでは解決しません。付加価値をつけるには、根本的なリニューアルが必要になります。
たとえば、築年数が経過して空室が目立つようになったワンルームマンションを再生するという方法があります。二つのワンルームをつなげて2 LDK にすることで、ちょっと広いところに住みたいと思っている独身者だけでなく、新婚夫婦や子供が小さい家庭にマーケットが拡大する可能性も出てくることでしょう。
しかし、多額の改修費用が必要となるため、収支とのバランスもありますからすべてに当てはまるわけではありません。やはり、立地条件と市場を的確に判断した上で進めてください。