もう土地は値上がりしない
私たちが「地価の二極化が進み、ほとんどを占める負け組のエリアでは、もう土地は値上がりすることはない」と断定できる根拠はいくつもあります。
最も大きな根拠は第一章で取り上げた人口減少と少子化社会の到来です。
企業も、これから大きなオフィスを持たなくなります。いま、企業は人件費の削減を大きな経営課題にしています。そのため、IT(情報通信)化を進め、少ない人数で大量の業務をこなすための投資を進めています。この結果、少ない社員=狭いオフィス空間で十分ということになります。不動産を所有することで生じるコストも削減できます。もはや大きな本社ビルを持つことが企業の信用力を象徴する時代ではありません。投資家も少ない社員で効率よく業務をこなし、売上高より利益を重視する企業に投資しています。これもまた、時代の大きな変化といえます。
日本の流通業界で雌雄を争っていたダイエーとイトーヨーカ堂は、ダイエーの苦境、イトーヨーカ堂の高業績という明らかな企業格差を見せています。原因はいろいろありますが、その一つとして、ダイエーは店舗用地を自社で買い取っていたため借入金が膨大になった、イトーヨーカ堂は土地オーナーが建てた店舗を借りる戦略をとったため借入金が少ない、といわれています。
今後、利益を重視する経営が評価されれば、イトーヨーカ堂のように「不動産は保有しない、必要な店舗や土地は借りればいい」という経営戦略が主流になります。
農地も後継者難から、田畑を宅地に転用するケースが増えています。大都市近郊では、とりあえず駐車場にするケースが多いのですが、いずれマンションやアパートに転用されると考えられます。
こうして、住宅用、業務用の土地やマンション、オフィスビルの供給は、需要を大きく上回ることは確実です。供給が需要を上回れば、当然のことながら価格は下がります。日本のほとんどの地域では「もう、土地は値上がりすることはない」という前提で、資産をどう守るかを考えることが最も賢明であり、絶対に必要な心構えなのです。
企業による不動産の大量放出は止まらない
大都市周辺で地価に大きな影響を与えているのが、大企業による不動産の放出です。
大企業は業績を回復するために、借入金の返済を進めています。その返済原資を得るために、何も使っていない遊休地はもちろん、福利厚生施設の社宅、グラウンド、保養所を次々に売却しています。これまで一流企業は都心の一等地に社宅や接待施設を持ち、東京都区内に広い野球場なども所有していました。しかしこのままでは維持管理に経費がかかるため、手放そうということです。
東京都心ではウォーターフロントといわれる東京湾岸の再開発が盛んに行われています。その多くは、かつては港湾施設近くの倉庫街だった場所で、大手不動産会社やゼネコンが超高層マンションを建設しています。東京都内には、長い歴史を持つ企業の未利用地が意外に多いのです。
中には本社ビルを売却する企業も増えています。ジャパンエナジー、レナウン、NEC、日産自動車、みずほコーポレート銀行、日立製作所など日本を代表する大企業が、続々と資産の効率的運用を理由に本社ビルさえも売却しているのです。
大企業の工場も、生産拠点の海外移転が進むことで次々に閉鎖されています。日産自動車の座間工場や村山工場のように、町中にあった広大な工場敷地は、そのままマンション用地や大型ショッピングセンターへの転用が可能です。中小メーカーも倒産や廃業が相次ぎ、社有地を処分しています。
また、幹線道路沿いの大型スーパー、ショッピングセンター、外食チェーン店も、個人消費の低迷から不採算店の閉鎖が続いています。このような土地が、マンション用地として市場に供給されるのです。
不動産を売却しているのは民間企業だけではありません。国有財産についても不況による歳入不足を補うため、国有地の本格的な処分をはじめました。
こうして大量に放出される企業、国の不動産を購入するのはマンション業者やオフィスビル業者だけでなく、外資系の投資専門会社も積極的に参入しています。いまでも東京都内では超高層ビルの建設がいたるところで行われていますが、今後も超高層ビルの建設ラッシュは続きます。
空室が目立つマンション、オフィスビル
オフィス、マンションが供給過剰状態にあることは、「テナント募集」「入居者募集」の貼り紙が町中にあふれていることからもわかります。
首都圏では、2002年から入居者募集中の物件(居住用)が増え、10万件を超えようとしています。賃貸オフィス、賃貸マンションはテナント、入居者確保の激しい競争をしているのです。賃料値下げなどは当たり前で、中には引越し費用を負担するビルオーナーも現れているほどです。
テナント募集中のオフィス物件も首都圏では2002年ごろから急増し、いまでは約6万件に迫る勢いになっています。事情は関西圏でも同様で、バブル崩壊時の10倍近い居住用物件の募集が出されています。
厳しい賃貸住宅の現状
首都圏では賃貸住宅が毎年新規に12万〜13万戸が供給され、うちの賃貸マンションが8割になっています。
新規供給戸数は横ばいですが、けっして少ない戸数ではありません。地方中核都市に匹敵する戸数が、首都圏では毎年、賃貸市場に供給されているのです。これでは既存賃貸住宅の入居者数が減少するのは当然のことといえます。
さらに賃貸物件の入居率は単身世帯、夫婦のみ世帯、ファミリー世帯とも減少傾向にあります。かつては収入が増えたり、子供が生まれると、より広い便利な賃貸マンションに移っていき、再び新しい入居者が見つかって、1つの需要サイクルができていました。ところがいまは、手に届く価格で、質も面積も賃貸マンションより勝っている分譲マンションという強力なライバルの出現によって、賃貸マンションから賃貸マンションへの移動が少なくなり、需要のサイクルが閉ざされつつあります。
一方、新築分譲マンションの販売が好調なのは、超低金利時代を反映して住宅ローン金利が低く、賃貸マンションに入っているより、マンションを購入したほうが支払い負担が軽くなるという現象が起こっているからです。今後、金利が上昇することが考えられます。これは、あまり予想したくないことですが、ローン金利の上=返済額の増大に耐えられない人が、相当出てくると思われます。ローンが払えなくなると、購入したマンションを売却したり、競売にかけられる人が出てくると予想されます。そうした物件も賃貸市場に出てくることが多くなると予想もできます。
こうして、考えると、賃貸マンションの供給過剰現象は、ますます激化することは間違いないでしょう。
それでもあなたはマンション、アパートを建てますか
都心の人気エリアですら賃貸物件が余っているのですから、ましてや郊外、地方都市の賃貸住宅は空室だらけといっても過言ではありません。
都心や都心近くで居住用賃貸物件が供給過剰になった結果、比較的安い賃料でマンションが借りられるようになれば、都心に通う人は、まず、郊外の賃貸住宅には入居しません。入居するのは、近くに仕事場がある場合でしょう。郊外にキャンパスを構える大学に通う学生も、都心に出るのに時間がかかり、買い物に不便なキャンパスの近くではなく、都心に近く、生活に便利なエリアにワンルームマンションを借りることが多くなっています。このため、大学に近いエリアに住む学生は激減し、学生の入居を期待して賃貸マンションやアパートを建てた土地オーナーは頭をかかえているのが現実です。
郊外の賃貸住宅は明らかに競争力を失っています。郊外で賃貸住宅を経営している人は、まず、入居者が出ていかないように努力するしかないでしょう。そのためには賃料の値下げ、設備の充実、外装工事など経営を圧迫することばかりが求められます。
既存の賃貸住宅経営者が頭を悩ましているとき、新規に賃貸住宅経営に乗り出すには、かなりの勝算と相当の覚悟が必要です。都心のマンションで空室が多くなっているように、立地がよくても満室になる保証はどこにもありません。
私たちは、これから賃貸マンションを建てよう、アパートを建てようと考えている人たちに「本当に大丈夫ですか?」と問いかけます。私たちがいう「土地は資産ではなくなる」という意味は、きちんと土地を客観的に評価して、最善の活用方法を選択しなければ、本来持っている土地の資産価値がなくなるということです。
客観的見地から、土地を見て、周辺の環境を調査し、市場性を考えてリスクが少ない活用法が見つからないときは、「何もしないことも選択肢の一つです」と改めて提案するケースも決して少なくありません。
安易な相続税対策で土地活用はすべきではない
相続税対策のためにアパートや賃貸マンションを建てると、たしかに相続税対策にはなりますが、第一章で指摘したように、建物を建てた瞬間に資産価値が目減りするだけでなく、金利上昇による借入金の返済負担増、空室リスクによる資金繰りの不安を抱えることになるケースが多いことを知ってください。
建設業者や住宅メーカーの営業マンは「更地にしておくより、アパートや賃貸マンションを建てたほうが、相続対策になります」というセールストークで勧めますが、オーナーは現金収入、つまり、収益性を重視して決断すべきです。
「相続税対策になるのなら、収益はそこそこでいい」と安易に考えてアパートや賃貸マンションを建ててしまうと、後悔することが多くなります。金利が上がって返済が増えたり、建物が古くなって、家賃を下げないと入居者を確保できなくなると、たちまち赤字になってしまうことがあるからです。
相続税対策になったとしても、そうした賃貸物件を相続した人は経営に苦慮することは間違いありません。不動産活用は「きちんと収益を上げる」が大原則です。このことをお忘れないように判断して、計画を実行するかどうか決断してください。
売却して現金化するのも一つの方法
デフレの時代は現金を所有していれば時間がかかっても資産が目減りするどころか、資産価値が増えるのです。逆にいえば、収益性が悪い土地を持っていれば、時間がたつにつれて資産価値は目減りする一方ですから、一日でも早く確実に高い収益を上げる資産に組み替えることをお勧めします。
組み替えがむずかしければ売却して現金化することです。デフレの時代は、現金で持っていることが資産価値を下げない一番の方法ともいえます。