いままでの常識が通じない時代にa
いま、時代は大きく変化しています。私たちは、いままでの常識が通じない時代に入っていることに、まず気がつき、そして新しい時代に適した生き方、時流に沿ったモノの考え方や見方に応じて、資産の運用方法を考えていかなければなりません。それには、私たちの周囲で起きている、いろいろな現象を敏感に感じ、読み取ることが大切です。
一番大きな時代の流れは、戦後、高度成長を続けてきた日本が、長期間の不景気にあえいでいることです。その原因はモノの価値が下がるデフレにあります。デフレの象徴が土地価値の下落です。ちょっと奇異と思える現象も起こっています。モノの値段(価値)自体が大きく変わっていることです。
資源小国の日本は、太平洋戦争のとき、「ガソリン一滴は血の一滴」という標語まであったように、ガソリンは貴重でした。ほとんどの家庭でマイカーを持つようになると、ガソリンの価格が大きくニュースで取り上げられたりしています。一方、日本の水質資源は豊富ですから、長い間、水と安全はタダといわれ、水を買うという考えはありませんでした。
ところが、どうでしょう。多くの人がミネラルウォーターを買うようになりました。自動販売機で買えば0.5リットルで120円(1リットルで240円)もします。では、ガソリンの値段はといえば1リットル100円前後です。つまり、日本人はガソリンの2倍以上も高い水を平気で買う時代になったのです。こんな時代がくると、誰が予想したでしょうか。
次は、人口減少が現実のものになる、ということです。
日本の人口は、戦後、一貫して増加してきました。しかし、2006年で人口は1億2773万人でピークを迎え、2007年から減少に向かうと予想されています。また、2025年には4人に1人が65歳以上の高齢者になり、総人口は約1億2000万人と予想されています。これは団塊の世代が高齢化する一方で、少子化社会が進行し、若者が減少することが最大の原因です。
これまでの世界の歴史を見ても、人口が減少する国や社会は大きな問題を抱えます。日本も何の手も打たなければ、成長のエネルギーも失うでしょう。
人口の減少と少子高齢化社会の到来は、土地価格に大きな影響を与えます。宅地の需要を考えると、現在の2/3に減少するといわれています。少子化社会の象徴として、長男・長女が結婚するケースが増えるからです。
夫と妻は、それぞれの親からの資産を相続します。すると、どうなるでしょう。もう、おわかりになると思います。夫婦で、それぞれが両親の家を相続すれば、一つの家は余るし、すでに自分の持ち家があれば、どちらの親の家も必要ありません。その結果、親の家を賃貸住宅にするか、持っていても仕方がないと考えて売却するケースが増えて、マイホーム用地が次々に賃貸市場や売買市場に供給されることになります。
したがって、少子化のため、新規にマイホームを求める需要は減少します。需要が減って、供給が増えれば、モノの値段が下がるのは経済の常識です。人口の減少、少子化社会の到来によって、賃貸住宅の賃料や土地の価格は一部の超一等地や人気エリアを除き、下がり続けることは間違いなく、政策的に止めることもできません。
土地が値下がることがわかっていれば、土地をもっている人たちは事前に何らかの手を打ち、最善の方策で資産を守ることが必要となります。
このことは誰もがわかっています。現実は土地を売ったり、有効活用することは簡単ではありません。親が生きている間に親の土地を売るわけにはいかない、先祖代々受け継いできた土地を自分の代で手放すことはできない、兄弟が土地を活用・処分することを了承しないなど、いろいろな理由があります。
しかし、黙って何の手も打たなければ、土地の価値(資産)が目減りすることは明らかです。
そこで、皆さんに問いかけてみます。先祖代々の「土地」を守ることが、あなたの使命ですか?それとも、先祖から引き継いだ「資産」を守ることがあなたの使命ですか?この選択が、資産を守れるか、守れないかの大きな分かれ道になります。
私たちは、土地所有者の皆さんが、「土地」ではなく、「資産」を守ることが、新しい時代に求められる発想と考えています。
当然、この資産には目に見えない、先祖や親から伝えられている「教え」「家風」「伝統」も含まれます。企業の場合も飛躍を迎えた段階や再建を余儀なくされたとき、創業の原点や企業理念に立ち戻ることが大事とされています。これは企業でも資産を持つ個人でも同じことです。
土地は本当に資産であり続けるのか
土地の価値は広さでは決まりません。地方の田園地帯に3000坪の未利用地を持っている人と、東京都心部に30坪の土地を持っている人の資産価値が同じとします。
まず、3000坪というまとまった広さの土地であっても、人口の減少が続く地方で安全確実な土地活用が可能かどうかということです。その土地に賃貸用物件を建てても、そこでビジネスをしようとする企業や居住を希望する人の市場性が低い土地は、健全な資産とはいえません。
一方、東京都心の30坪の土地は立地条件次第ですが、賃貸物件を建てて収益を上げることもできますし、価格の折り合いがつけば売却も可能です。銀座のメイン通りに面したような超一等地であれば、どんな土地活用をしてもリスクはかなり小さいといえます。こうした活用可能で、高い収益を上げる土地が健全な資産といえるのです。
何の収益も上げない3000坪の未利用地と、高収益を可能にする東京都心の30坪の土地の、どちらを所有したいと思いますか?答えを伺うまでもないでしょう。つまり、ただ土地を持っているだけでは「資産」ではないということです。有効活用ができて、その結果、資産価値が維持できる土地でなければ「本当の資産」とはいえないのです。
私たちが「土地活用はやめたほうがいい」とアドバイスするのは、いまが土地活用がむずかしい時代だからだけではありません。安易な土地活用をしてしまったために、健全な資産の価値を減らしてしまうことがあるからです。これについては、実例で説明します。
東京近郊で駅から徒歩20分ほどのところに、300坪の更地を想定します。土地価格は坪60万円で、計算上の資産額は1億8000万円になります。
こうした土地オーナーのところには銀行や不動産会社、住宅メーカーが「相続税対策のためにアパート、マンションを建てましょう」と連日のように訪れます。更地に賃貸物件を建てるとたしかに更地は貸家建付地になって、相続税評価額は減額されます。しかも、更地のままでは何の収入もなく、固定資産税がかかるだけですから、土地オーナーは「何とか、この土地を有効活用したい」と考えるのは当然でしょう。
※貸家建付地の相続税評価の軽減割=借地権割合×借家権割合×賃貸割合
その話に乗って、アパートを建てたとします。延240坪で、建設費は諸経費込みで坪50万かかり、諸経費込みで総建設費用は約1億2000万円です。ここで確認しておきたいのは、1億8000万の価値がある土地に1億2000万円の費用をかけたので、表面上の資産額は合計3億円になっていることです。
この周辺の賃貸相場では賃料毎月120万円、年間1440万円の収入が見込めます。諸経費や税金を考えなければ、計算上、建設投資額に対する利回りは約12%にもなりますから、9-10年で初期投資額を回収できることになります。いまの時代。これほどの高い利回りが得られる金融商品、投資先はないといってもいいでしょう。
ですから、「活用していない土地があれば、アパートを建てましょう」という誘いが殺し文句になるのです。
次に、別の側面から、この事例を検討してみましょう。 不動産鑑定士が収益物件の価格を決めるときに使われる手法に「収益還元法」があります。これは、その物件から得られる利益から物件の価値(価格)を算定する方法です。
アパートを建てた300坪の土地を、改めて収益還元法で価格を計算してみます。つまり、年間1440万円の収益がある<土地+建物>は、いくらで売れるかです。現在の市場では、表面利回りで年間8-10%の利回りがなければ売れません。ここでは8%の利回りで売却可能とします。年間家賃収入の1440万円が8%の利回りになるとすれば、売却可能価格は1億8000万円になります。これがアパートを建てたあとの土地を合計した価格(=資産値)です。
そこで、確認してください。この土地と建物の合計資産価値が3億円なければ、アパートを建てた意味がありません。ところが、アパートを建ててしまったために、資産価値は1億8000万円に、逆に1億円以上目減りしてしまったのです。そのうえ、アパートの建設資金は相続税対策のために全額借り入れするケースが多いので、返済負担も大きいはずです。
しかも、家賃収入はアパートを坪5000円で貸し、いつも満室になっているという前提です。現実問題、駅から徒歩20分のアパートの入居者の市場性は低いと予想されます。ほとんどの人は駅に近いマンション・アパートに住むことを考えます。
このため、入居者を確保するには家賃を下げる必要も出てくるでしょう。家賃を坪4000円に下げて、かろうじて満室状態になったとして、年間家賃収入は1152万円になります。
そこで、収益還元法から不動産価格を計算すると、1152万円が8%の利回りになるので1億4400万円ということになります。繰り返しますが、1億8000万円の価値がある土地に約1億2000万円をかけたアパートを建てたために、本来、3億円の価値があるべきなのに、半分以下に資産を減らしてしまうのです。
この事例は、何を意味していると思いますか?
「相続対策を目的に余計なこと(土地活用)をしてしまったために、土地の資産価値を大きく減らしてしまった」ということです。更地のままにしておけば1億8000万円の資産価値がある土地にアパートを建てる契約を結んだ瞬間に、1億円以上の資産を減らしてしまったのです。
更地のままであれば、相続が起こったとき、そのまま物納することも売却することも可能です。いろいろな選択肢が残されます。しかし、アパートを建ててしまったために、アパート付きの土地としてしか評価されません。
それだけでなく、新しい問題がいくつも起こります。
建物部分には、新たに固定資産税の負担が生まれます。そのうえ、相続が起きるまでは金利上昇リスクと空室リスクに、いつもおびえていなければなりません。
また、借入金は相続税額から控除されるので、相続対策になるともいわれていますが、相続によって借入金がなくなるわけではありません。アパートを相続した人が借入金を返済し続けなければならないのです。また、この相続人がアパートを相続するころ、老朽化に伴う空室リスクとの闘いが本番を迎え、苦しむことになります。
私たちは、土地オーナーに「あなたが実行しようとしている有効活用は、本当に安全・確実という確信がありますか?」と問いかけたいのです。有効活用をしていいかどうかは、今後予想される金利上昇や入居者市場の動向によって、当初期待していた収益を確保し続けることができるかどうかが判断基準になります。その判断によって「何もしない」という選択肢も入ってくるのは当然です。
アパート・賃貸マンション経営はむずかしくなっている
東京都区内西部で「中央線 JR 駅から徒歩 11 分、3 LDK( 約 75 u ) のマンションが自己資金ゼロで購入できます」「ローン返済負担を、いまの家賃と比べてください」という内容のチラシが配られました。
販売価格は2 LDK(63 u ) 4,500 万円〜3 LDK(77 u ) 5,750 万円です。3 LDK(75 u ) を 5,590 万円で購入して、全額住宅ローンを借りボーナス払いなし(金利1%、返済期間 35 年)で返済するとしたとき、毎月の返済額は 157,800 円になります。
私たちは、周辺で同じような広さのマンションの平均月貸料を調べてみました。すると駅から 12 分のマンションが 65 uで平均 195,000 円、 75 uで平均 221,000 でした。明らかに賃貸マンションに住んで賃料を払うより、マンションを買ったほうが毎月 6 万円以上、負担が減るのです。
このマンション販売業者は、マンションから半径 2 キロ以内の賃貸マンション、アパートにチラシを持って飛び込み営業をしました。そして「いま支払っている家賃はいくらですか」と聞き、「それよりずっと安い返済で、もっと広い新築のマンションが買えます」とセールスするわけです。これでは「賃貸マンションに入っているより、分譲マンションを買ったほうがいい」という選択になるでしょう。
営業マンの話を聞き、チラシを読んだ人は「そうか。家賃より少ない負担でマンションが買えるのか」と考えるでしょう。そして、購入を決断した人は、賃貸マンションを引き払うことになります。つまり、賃貸マンション経営者にとってのライバルは、同業の賃貸マンションだけではないのです。賃貸マンションに入居している人にとって、分譲マンション購入が将来設計ではなく、いま、現実の選択肢に入ってきているのです。
ところが、このマンションは、すぐには完売にはなりませんでした。「分譲マンションを買ったほうが得だ」と考えた人は「いまの時代は時間がたっても値上がりすることはない。売れなければ値を下げるだろう」と見ていますから、値下がりするのを見越して待っているのです。賢いというべきでしょう。事実、この分譲マンションはかなり価格を下げて売却したようです。
所有する賃貸マンションの近くに分譲マンションができたとき、「売れ行きが悪い」と対岸の火事として無関心ではいけません。売れ行きが悪くてマンションの価格を下げてくれば、どっと購入者が増えて、近隣の賃貸マンションに空室が増える可能性が十分にあります。
また、このマンションの最寄り駅から二駅だけ都心より遠くなるだけで、3LDK(約73u)が3430万円で販売されています。この価格は、全額を借り入れても(返済期間35年、金利1%)、頭金0円、ボーナス払い0円でも月々の返済額は10万円を下回る負担ですみます。
しかも、近隣の駐車場料金は月1万円以上しているのに、このマンションの駐車料金は月800円です。こうなると、分譲マンションの価格破壊≠ニいっても過言ではないでしょう。
すでにアパートや賃貸マンションを持っている人、これからアパートや賃貸マンションを建てようと考えている人たちには、この現実を知ってほしいのです。つまり、分譲マンション業者は、賃貸マンションやアパートに住んでいる人たちをターゲットに営業をしていること、しかも、そのセールストークは極めて説得力を持っていることです。
こうして、アパートや賃貸マンション所有者には分譲マンションや建売住宅という強力なライバルが出現しているのです。
さらに、マンション販売の驚く実態を紹介します。
これはマンションをライフサイクルに合わせて、居住空間を変更させることで、ローン返済負担を軽くする、というものです。
都内JR駅から徒歩7分のマンションです。このマンションは2DK+1K、あるいは3DK+1Kという部屋割になっています。これは二世帯住宅のためではありません。まったくセパレートされた一部屋が区切られていて、そこを1Kあるいはワンルームマンションとして貸すためです。
すると、購入者は賃貸収入があるので、その分、ローンの返済負担を軽くすることができます。このマンション分譲業者のチラシには「2DKに住み、1Kを貸せば毎月3万円台の負担で合計62uのマンションが買えます」という謳い文句が出ています。
そのチラシによれば、3430万円の2DK+1Kを自己資金150万円、銀行ローン3280万円で購入したとき、毎月の返済額(ボーナス払いなし、金利2,375%、返済期間35年)が115,000円で、1Kからの賃料76,000円を見込んで、実質的な毎月の支払いは39,000円になる、というのです。
将来、子供が大きくなり、ローンの全額負担に耐えられるようになったら、1Kを子供部屋や書斎にすることができます。子供が新婚のときは二世帯住宅として使うこともできます。子供が独立して夫婦二人の生活になったときは、再び1Kを貸すか、自分たちが狭い1K部分に移り、2DKを賃貸にして入ってくる賃料が老後資金の足しになる、というわけです。
もう一つあります。
ある分譲マンション販売会社のチラシには、いろいろな販売促進策が打ち出されています。 たとえば、単身者や自営業者に、不動産会社が60歳まで所得保証の保険をかけるというのです。ローン返済中に病気になったりして収入が途絶えたとき、ローン返済ができる所得を保証するということです。あるいはマンション購入者にガソリン1万リットル、または洗車500回分、オイル交換200回分のいずれかをプレゼントするというサービスもあって、それぞれ100万円ほどになります。さらに、マンションを買い換えるとき、自社の査定価格で売却できなければ、最大100万円まで補填するという制度もあるほどです。
いずれも、マンションを購入してもらうための販促策です。逆にいえば、ここまでのサービスをしなければマンションが売れなくなった証拠ですが、こうした分譲マンションの販売手法は、アパート、賃貸マンション経営者の敵≠ニいえます。
確実にいえることは、今後、分譲マンションの大量供給がはじまり、投げ売り状態になることです。やがて、売れ残ったマンションは、投資用マンションに変貌していくことも考えられます。つまり、賃貸仕様と比較して品質の高い分譲仕様のマンションが賃貸マンションに切り替わることになるのです。そのことも、既存アパート、既存賃貸マンション経営に大きな影響を与えます。
都市基盤整備公団も、入居者離れをとめるために110団地の賃貸料を値下げしました。かつて公団といえば、駅から遠く不便で、しかも賃料も安くなく、空室が目立っていました。しかし、最近は駅前や駅徒歩圏内、都内にも公団住宅がつくられるようになり、しかも、外見、内装ともかなり洗練されたものになっています。そのため、公団住宅も賃貸マンションの明らかなライバルになってきています。今回の賃料値下げは、賃貸マンションからの住み替えを狙ったことに間違いありません。
東京近郊のベッドタウンとして大規模開発された多摩ニュータウンがあります。1995年、東京都住宅供給公社が3棟、135戸の分譲マンションを発売しました。まだ、不動産価格が高いころだったので平均販売価格は5742万円でした。しかし、実際販売できたのは半分の約70戸で、残り約65戸は空室のまま売れ残っていました。
2003年、ついに大幅に値下げした販売する方針を打ち出しました。販売価格は当初価格よりも約7割も安い平均1927万円(1312万円〜2371万円)でした。平均倍率は約100倍、最も人気があったのは3LDK1575万円の物件で、382倍もの高倍率になりました。この価格にひかれた多くの人が殺到し、近くの道路は数キロにわたって渋滞するという現象を引き起こしたほどです。すでに購入している入居者たちが「自分が住んでいる部屋の資産価格が目減りする」といって反対運動を起こしたことでニュースにもなりました。
人気が集まったのは当然のことです。95年の発売当初、平均価格の5724万円で購入した人の場合、仮に自己資金ゼロとして当時の住宅ローン金利が2%、返済30年として毎月の返済額は21万1570円でした。ところが、今回、購入価格が大きく下がったことで、平均販売価格1927万円で購入すれば、同じ条件として比較すると返済額は3分の1の7万1226円ですむのです。
この場合、購入者自身が住まずに、賃貸物件にすれば一定の家賃収入を確保して、ローン返済に回すこともできます。
2LDK(約78u)を1312万円で購入したとき、近隣の賃貸マンションの家賃を調べると月11万7千円で貸すことができます。そこで、ローンを20年で設定しても、金利2.375%でボーナス払いなしの毎月返済額が6万8727円ですから、購入して賃貸にすることで収入を確保することもできます。つまり、賃料を約40%下げたとしても購入額の返済に自己資金を持ち出す必要はないのです。
二極化現象が起こっている
いま、不動産市場は、明らかに勝ち組みと負け組みの二極化現象が起こっています。大幅な値下げをしなければ売れないマンションや土地は負け組みですし、価値上昇に転じたごく一部の地域だけが勝ち組みです。
この傾向は東京、大阪といった大都市圏だけでなく、地方都市でも起こっています。見方を変えれば、大都市と地方都市の間でも二極化現象が起こっています。
まず東京都内商業地の公示価格を見てみましょう。
東京駅丸の内側の千代田区丸の内3丁目の場合、最高価格は91年のu当り3800万円でした。そしてバブル崩壊に伴う土地価格の下落で、2004年には1/3近い1400万円まで下がっています。しかし、2年前に比べると70万円値上がりしています。値上がり率は5.3%で、この地点の地価は底を打って反転したことを意味しています。この原因は新丸の内ビルの完成や、その後の再開発計画が順調に進み、再び日本経済の中心地としての発展が来たいされることにあります。
商業地域の代表ともいえる銀座6丁目も、93年にu当り3450万円が60%ダウンの1510万円になっていますが、2年前に比べ12.7%(170万円)の上昇に転じています。麻布十番2丁目は88年が最高値で1220万円をつけたあと値下がりして、何と84%ダウンの195万円までなっていますが、いまは下げ止まって値上がりしています。
こうした数少ない土地が「勝ち組」なのです。
最近、都心のビルの人気が高まり、バブル期に似た活況を見せています。しかし、同じ地域でも地価が上昇に転じた勝ち組と、下落が続く負け組があります。細かくいえば、表通りに面したビルが値上がりしても、裏通りのビルは値下がりが続くという現象は珍しくありません。このことは、同じ都心のビルといっても、どの立地、どのビルに投資すればいいかという判断が極めてむずかしいことを示しています。
新宿駅西口前の新宿区1丁目は91年の3750万円が1/4の938万円に値下がりしていますが、ここは地価が下げ止まって、これから上昇に転じる気配を示しています。
ところが、同じ西新宿でもちょっと駅から離れた西新宿6丁目では、92年にu当たり1766万円の最高値をつけ、その後、値下がりして85%ダウンの247万円にまで下落しています。しかも、ここは下げ止まりの気配はなく、2年間で9.6%のダウンで、まだ値下がりを続けると思われます。
負け組の状況はさらに悪化しています。
東武線竹の塚駅前の足立区竹の塚1丁目はu当たり214万円を最高値に、いまは41万6000円まで80%ダウンになっています。にもかかわらず、下げ止まる気配はありません。
京王線調布駅前の調布市小島町1丁目は最高値496万円をつけて、いまは97万円ですが、さらに値下がりを続けています。こうした負け組みの例は枚挙にいとまがありません。
東京都内の住宅地の場合、公示価格が下げ止まりを示している地点が現われはじめました。港区南青山4丁目は88年にu当たり633万円していました。2004年には97万2000円に値を下げていますが、2年前比では4.5%の値上がりを示して反転しています。渋谷区広尾2丁目もu当たり430万円から80万7000円まで値下がりしていますが、ここも下げ止まっています。
このように、東京都内では一部の高級住宅地や人気の高い地域では、住宅地でも地価は下げ止まり、上昇に転じる気配を示しています。これらの地点が勝ち組みになる可能性は、非常に高いといえます。
一方、都心からちょっと離れた住宅地はどうでしょうか。
杉並区南荻窪4丁目は88年にu当たり135万円もしていましたが、2004年には50万2000円まで値下がり、下げ止まり感はありません。
郊外の住宅地は、さらに深刻です。
東京都小平市鈴木町1丁目は地価がピーク時の1/3まで下がっている上に、2年前比6%以上の値下がりが続いています。武蔵村山市中央4丁目も同様で、かつての値上がりが低かったので、地価は半分に収まっていますが、2年間で20%近い値下がりになっています。
東京一点集中のため、東京と地方との格差は広がっています。それはそれぞれ一等地の地価を比較することで明らかとなります。
たとえば、商業地の場合、2002年、東京都中央区の地価はu当たり1340万円でしたが、2004年には1510万円に値上がりしました。一方、宮城県仙台市青葉区中央の地価は2002年のu当たり221万円から2004年には183万円に下がり続けています。このため、両地点の地価の差は2002年の6.0倍から8.3倍に拡大しているのです。住宅地でも同様で、東京都港区南青山と宮城県仙台市青葉区錦町の格差は2002年の4.6倍から2004年には5.2倍にも広がっています。
これは地方の値下がりのほうが大きいことを示しています。地下下落の影響は地方のほうが深刻といえます。
バブル崩壊後、いまでも大きく地価を下げているのは、バブル時に異常な値上がりをしたため、その反動で地価の下落が続いているのです。つまり、株投資の世界でいわれる「山高ければ谷深し」と同じことです。
このように東京エリアの地価を見ると、値上がり、あるいは値上がりに転じようとする都心と、値下がりが続く郊外に大きく分かれます。これは、「都心回帰現象」が起こっているからです。
都心部の土地価格や分譲マンション価格が最高時の1/3、1/5に値下がりし、賃貸マンションの賃料も下がっています。すると、郊外でしかマイホームを持てなかった人が、生活に便利で、娯楽・教養施設、医療施設が充実している都心部に移り住もうと考えます。このため、東京山手線沿い、山手線内の人口は増加傾向を示しています。
都心回帰現象を証明するように、実際、都心部の分譲マンションは発売即日完売の例が多くなっています。しかし、不動産投資の観点から見ると、けっして楽観できることばかりではありません。
それは、マンション、オフィスの大量供給が起こっているからです。
オフィスビルは丸の内地区、汐留地区、品川駅東口地区、六本木地区の再開発などによって、2003年、山手線内に大型ビルだけで99万u(30万坪)東京ドーム約22個分の巨大空間が誕生しました。これらの大型ビルはセキュリティや高度通信基盤が整備されているため、業績がいい企業がこぞって移転していきました。移転で空いたビルには、より広いオフィス環境を求めて中小ビルから移転する企業も多く、玉突き現象のように事務所の移転が盛んに行われました。
入居していた事務所が移転したとき、次の入居企業があればいいのですが、なかなか入居企業がなく、「テナント募集」という貼り紙を出しているオフィスビルが、そこかしこで目につきます。
このオフィス大量供給による、オフィスビル空洞化は「2003年問題」としてマスコミをにぎわせました。しかし、「2003年問題は2003年に終わった」と考えてはいけません、実は、2003年問題は2003年にはじまり、これから問題が深刻化していくのです。
マンションも同様です。人気があるといわれている東京都心三区(新宿区、港区、中央区)の賃貸住宅の空室募集状況を見ると、2004年1月現在で合計1万3000戸ほどになっています。うちワンルームマンションは約9600戸です。
1月というのは、ワンルームマンションの契約率の高い時期です。それにもかかわらず、これだけ多くの募集物件があるのです。
これほど都心の既設賃貸マンションに募集物件があるのに、郊外で新たに賃貸マンションを建てるとすれば、立地に相当の自信があるか、相続対策を考慮に入れてのことでしょう。しかし、私たちからすれば「無謀」の一言です。
さらに、首都圏のマンションの建設計画は、まだまだ目白押しです。
総戸数500戸を超える大型マンション建設も、東京都内では広尾、下丸子、品川、勝どき、東雲、都立大学で計画され、近県では神奈川県大船、綱島、湘南台、若葉台、橋本、埼玉県ふじみ野、千葉県八千代台、新浦安、南船橋、あゆみ野などで計画されています。
超高層マンションの建設も続きます。2003年に1万8000戸が完成し、その反動で2004年には8000戸に減少しますが、再び2005年には1万2000戸、2006年には1万7000戸の建設が計画されているのです。
このように首都圏では超高層マンションだけで、毎年合計6万戸建設されようとしているのです。こうした超高層マンションや大型マンションは、大型ショッピングセンターが併設されたり、セキュリティにも配慮されているので、既存の賃貸マンションにとっては脅威です。すでに所有している賃貸マンションの近くに大型マンションが完成したときは、居住者が移転することを覚悟すべきでしょう。
こうしたマンション事情を反映して、大手不動産会社を巻き込んだマンション販売競争が繰り広げられています。その激しさは、個人オーナーでは太刀打ちできないでしょう。
都内人気スポットのお台場では、高層マンションを販売しているA社のモデルルームの前で、来訪者にライバルのB社が「お台場マップ」を配布していました。そこにはB社が販売している高層マンションモデルルームまでの道順が赤線で示されているのです。また別の実話として、C社の場合、すでに他社のマンションを契約した人が支払った手付け金分を負担して、自社物件を販売しています。こうした仁義なき戦いは、大量のマンションが発売され、品川戦争とまでいわれる品川駅周辺でも展開されています。
にもかかわらず、売れ行きは芳しくありません。売れ残った物件は、どうなるのでしょう。不動産会社としては空席のままにしておくわけにはいきませんから、価値を下げて販売することになり、投資家が購入すると賃貸物件としては市場に登場することになるのです。
そして、賃貸オフィスビル市場では「2003年問題」といわれましたが、賃貸マンション住宅市場では深刻な「2005年問題」が浮上していきています。
日本経済の低迷とリンクして、賃貸マンションが供給過剰になると、空室が増え、賃貸相場が下落します。家賃収入が減ると、収益還元法から算出される土地の評価額も下がります。土地資産の崩壊減少は、さらに続くことになります。持っている土地の価格がもっと下がれば、相続税を払えなくなる土地資産家が続出する可能性もあるでしょう。
都区部の分譲マンション価格や賃貸マンションの賃料を調べてみました。
マンションの平均販売価格は2001年まで大きく下落する一方でした。しかし、2002年に下げ止まり、何とマンションが大量供給された2003年には横ばい、あるいは値上がりに転。これはマンションが売れはじめ、マンション販売業者が強気になった証拠といえます。
賃貸マンションの平均賃料は、98年以降、大きな変化はなく、安定しているように見えますが原因は高い賃料を設定する新築賃貸マンション、高層賃貸マンションの供給が増えたためで、けっして、おしなべて賃料相場が安定しているわけではないのです。逆に、一部のエリアを除いて既存賃貸マンションでは値下がり傾向にあります。
つまり、賃貸マンション市場でも二極化現象が起こっているのです。多くのマンションは賃料を下げないと入居者が確保できず苦労していますが、超一等地や人気のエリアでの新築マンション、高層マンションは高い賃料でも入居者がいるということです。
このため、賃料を下げざるを得ない既存マンションが増えているにもかかわらず、高い賃料の物件が大量に供給されているために平均賃料は下がらないという結果になっているのです。賃貸マンションの平均賃料は下がっていないといっても、既存マンションの所有者はけっして安心してはいけません。賃貸マンション市場にも二極化が起こっていることを前提に、賃貸マンションの経営を考えることです。